『告白』『嫌われ松子の一生』『下妻物語』中島哲也監督のヒットの法則に迫る
昨年の日本アカデミー賞で最優秀作品賞に輝いた映画『告白』を手掛け、映画『嫌われ松子の一生』『パコと魔法の絵本』などのヒット作を連発し、“映像の魔術師”とも称される中島哲也監督だが、彼の作品がヒットする理由に迫った。
CMの演出家として成功を収めた中島監督だけあって、まず挙げられるのが類を見ない洗練されたビジュアルセンスだろう。中島監督に大きな注目が集まった映画『下妻物語』ではロリータとポップ、『嫌われ松子の一生』ではゴージャスでレトロ。『パコと魔法の絵本』ではCGを絡めてファンタジーな中にもどこかグロテスクさを醸し出し、『告白』ではこれまでにないダークな映像美を作り上げた。一作品ごとにビジュアルが異なり、めくるめく世界が展開される。そんな表情豊かなビジュアルを楽しみにしている観客も少なくはないはずだ。
中島監督の作品に出演することで、俳優たちが新たな才能を引き出されることにも注目したい。『下妻物語』の深田恭子と土屋アンナはこれ以上ないほどに適役だったし、『パコと魔法の絵本』では頑固かつ繊細な役柄を役所広司が見事に演じたほか、コワモテの國村隼や硬派な上川隆也までがメイクや衣装で変身。ぶっ飛んだ役に挑んで、強烈なインパクトを与えている。実は、中島監督は俳優をとことん追い込むことで有名だ。『嫌われ松子の一生』の中谷美紀は「女優を辞めようと思った」というほど罵倒(ばとう)され、『告白』の松たか子は鼻血が出るほどの熱演を見せるなど、中島監督の厳しさをうかがわせるエピソードも。こういった俳優たちが明かす撮影秘話は話題を呼び、中島監督の期待に応えた俳優たちの演技も高く評価されているのだ。
一つのイメージにとらわれないクリエイターとしてのこだわりも、中島作品に引き込まれる理由の一つだ。堕落していくヒロインの生涯を描いた『嫌われ松子の一生』は、壮絶なストーリーとハイテンションなミュージカルのギャップに誰もがあぜんとなった作品。原作のストーリーをなぞるだけではなく独自のカラーを打ち出した演出手腕が、中島監督らしさとして評価されている。映画を観る前でも後でも原作を読んだなら、中島監督のこだわりに一層びっくりさせられるだろう。さらに、『告白』で中島監督のうまさを感じさせたのが、クローズアップやスローモーションなどの印象的なカットの挿入。観る者を不安な気持ちにさせる演出が効いている。
いまや、日本で最も次回作が待ち望まれる映画監督となった中島哲也。次にどんな作品が中島監督によって料理され、われわれにサプライズを与えてくれるのか期待したい。(岩永めぐみ)
映画『告白』は6月12日よる10:00よりWOWOWにて放送。