ジュリアン・シュナーベル監督の新作『ミラル』、パレスチナ孤児多数が少女期に結婚、娼婦、自爆犯になる事実
映画『バスキア』や『潜水服は蝶の夢を見る』などの秀作を手掛けてきたジュリアン・シュナーベル監督作『ミラル / Miral』の原作・脚本を執筆したルーラ・ジブリールが、この注目の映画について語った。
同作は、1948年、パレスチナ女性のヒンドゥ・フセイニ(ヒアム・アッバス)は、エルサレムの路上で親を殺害された孤児たちを引き取り、孤児院を経営し始めながらその子どもたちを教育していく。そんなある日、母親ナディアを失ったミラル(フリーダ・ピント)が孤児院に現れ、そこで生活を送り始めるが、終結の見えない紛争の中で彼女は翻弄されていくというドラマ作品。
ルーラの体験が原作で記されているが、必ずしも自叙伝とは言えないそうだ。「わたしの母親は5歳のときに亡くなっていて、母親の記憶に関してはすべて第三者から聞くしかなかったの。そのため、自分が執筆したものではあるけれど、自叙伝ではないわね」と述べた後、ではどうして原作を執筆する気になったのかについては、「わたしが孤児院にやってきたのは5歳で、当時わたしの妹に本を読んであげていたわ。それが、自分を本の世界に置き換えるようになって、いつか作家になりたいと思っていたの。ただ、当時のわたしの環境(パレスチナ時代のこと)が厳しかったために、イタリアに移住してジャーナリストになって、それから報道番組の司会者に携わってから、イラク戦争などを通して、ようやく自分のストーリーを執筆してみようと考えたの」と語ったように、ジャーナリストやアンカーウーマンなどのいろいろな体験を通して、より詳細で興味深い観点を原作に描写できたようだ。
パレスチナに住んでいたころは、よく不満を抱えていたようで、「政治的なものではなく、もっと身近なところで不満を感じていたわ。そのころ、よく親戚の住むハイファを訪れた際に、自分はその家の手伝いで膝を床に付けながらずっと掃除していたけれど、わたしの従兄弟はテレビを観ながらイスに腰掛けていたの。そういう体験をそれまでもずっとしてきて、パレスチナのそういう男性社会を変えたいと思い始めたの。そこで、まず家族内から女性の自由を主張しなければいけないと思い、少女時代に反抗していったの」と語った。さらに彼女は、まわりにヒンドゥ・フセイニのような強い女性が居たのも大きな影響であったことを教えてくれた。
孤児の女の子が、少女期に結婚させられることについて、「実はわたしも反抗期に入る前に、何度か父親から見合い結婚をさせられそうになったわ。幸いにも、あたしは肌の色が黒いから、相手の男性の好みではなかったみたいで逃げられたけれど……(笑)。ただ、孤児の女の子は娼婦になったり、最悪のケースはスーサイド・ボンバー(自殺爆弾犯)になってしまうことね。こういうケースは、無知であることを利用されてしまっているの。だから、わたしはできる限りの教育を受けて独立した女性になろうと思ったわ。その教育がわたしを自由にさせ、批判的な思想家にもさせていったの」と教育の重要性を訴えた。
映画は、ジュリアン・シュナーベル監督特有の視覚に訴えてくる映像とフリーダ・ピントの力強い演技が魅力の映画に仕上がっていて、ミラル、ヒンドゥ、ナディアそれぞれの女性が徐々に心に残っていく。 (細木信宏/Nobuhiro Hosoki)