こんなに評判がいい作品ってジブリで近年にまれなんじゃないか!?スタジオジブリ広報部長が新作映画『コクリコ坂から』を語る!
全国24県に自ら出向き、映画『コクリコ坂から』の宣伝活動を行ってきたスタジオジブリ広報部長・西岡純一氏が、本作が2度目のメガホンとなる宮崎吾朗監督の成長を語った。入社以来、スタジオジブリの広報として、一般企業でいう広報の仕事から、営業、映画宣伝の仕事まで、幅広い事業に携わり、スタジオジブリ作品を支えてきた西岡部長。本作の初号試写の際には、宮崎駿の反応が気になり、映画の内容がまったく頭に入ってこなかったことを明かしたが、その後じっくりと本作を観る機会を得ると、本作のストーリーが自身の高校生活にも重なり、すっかり思い入れのある作品に。「こんなに評判がいい作品って、ジブリで近年にまれなんじゃないかなって、本当にそう思っています」と本音もこぼれた。
企画&脚本・宮崎駿、監督・宮崎吾朗で制作された本作は、3月11日に発生した東日本大震災よりも前に企画され、震災後に一切の変更を加えていないにもかかわらず、震災後の日本人の心に響く、心温まる作品となった。西岡部長は「宮崎(駿)さんは映画を作るとき、公開になるときの日本の世の中がどうなっているかをすごく考えるんですよ」と宮崎駿の映画制作における思考の一端を明かしたが、それを知っていてもなお、宮崎駿の企画力には脱帽するという。本作には、震災後の日本人を励ました故・坂本九氏の名曲「上を向いて歩こう」が挿入歌として、曲のタイトルがそのままキャッチコピーとして使用されていることに言及した西岡部長は「宮崎さんと鈴木(敏夫)プロデューサーは、なんか時代を読めるんですよね。その力はものすごいなと思って、改めてびっくりしています」と素直な気持ちを明かした。
また西岡部長は、宮崎吾朗監督のデビュー作『ゲド戦記』、スタジオジブリで活躍するアニメーターであった米林宏昌を監督に抜てきした『借りぐらしのアリエッティ』と新人監督がメガホンを取った2作品について、「新人が作るので、あまりいろいろなことはできないだろうということで、すごく絞り込んで、登場人物が5、6人しかいないんです」といろいろな要素をそぎ落としていることを明かす。一方、今回の『コクリコ坂から』は、宮崎吾朗監督にとって2作目であるにもかかわらず、100人以上ものキャラクターが登場することに言及し、「キャラクターが立った人たちもたくさん出てきますが、それをちゃんと見事に描き切ったし、魅力的に描いたということで、吾朗さんの成長をすごく感じた」と語った。宮崎駿も、初号試写を終えた際、「この映画をこのタイミングで公開できることを誇りに思う。この作品は幸せだ。祝福されている。時代に受け入れられる作品になっている」とお墨付きを与えていたことを振り返った。
『コクリコ坂から』は、1963年の横浜を舞台に、自宅兼下宿屋である「コクリコ荘」を切り盛りする高校生の少女・海と、新聞部部長・俊の出会いを、戦後の混乱期に青春を過ごした2人の親の世代の物語と絡めて描いた初恋の物語。西岡部長は、高校時代、海と俊のように、自分が書いた原稿のガリを好きな女の子に切ってもらっていたこと、自身の高校にも、本作で物語の中で壊すか保存するかの議論の対象となる「カルチェラタン」のように部室棟があったことを振り返り、「この映画は(自分の青春の)ど真ん中だなと思いました」と思い入れを語る。また、全国キャンペーンで各地の劇場に足を運んだ際には、本作が自身と同じ年代の人々だけでなく、現代の高校生や、さらに小さな子どもたちからの共感を得ていることを肌で感じ、うれしい驚きを覚えたという。確かに、どんな世代の人々にも、どこか懐かしさを感じさせるさわやかな青春映画に仕上がっている本作。スタジオジブリからの「上を向いて歩こう」というメッセージを、目で観て、感じてほしい。(取材・文:編集部 島村幸恵)
映画『コクリコ坂から』は全国公開中