今年のアカデミー賞&ゴールデン・グローブ賞W受賞は善と悪を問う良作!
デンマーク出身のスサンネ・ビアは現在世界が最も注目する映画監督の一人であり、最新作『未来を生きる君たちへ』で、第83回アカデミー賞&第68回ゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にてW受賞という快挙を成し遂げた実力の持ち主だ。彼女の最高傑作との呼び声も高い待望の映画がいよいよ劇場公開される。
デビュー当時、ビア監督の作品はスウェーデンとの合作の形をとることが多かったが、故郷デンマークに戻って撮り上げた『ジ・ワン・アンド・オンリー(英題)/ The One and Only』(日本未公開)という長編映画が国内で大成功を収めたことから、本国での評価も一気に上昇。その後も彼女は、同じデンマーク出身のラース・フォン・トリアー監督が提唱した「ドグマ95」に連なるドグマ作品として2002年に『しあわせな孤独』を発表し、2004年には『ある愛の風景』、2006年には『アフター・ウェディング』とコンスタントに良質な作品を生み出し、デンマーク国内で確固たる地位を築いていく。
アフガニスタンからの帰還兵とその家族の苦悩を描いた『ある愛の風景』は、『マイ・ブラザー』としてトビー・マグワイア、ナタリー・ポートマン、ジェイク・ギレンホールら若手実力派俳優たちの共演でリメイクされたことからも、彼女の作品への注目度の高さがうかがえる。ビア監督自身もハル・ベリーとベニチオ・デル・トロの共演による『悲しみが乾くまで』でハリウッド進出を果たし、名実共に国境を越えて活躍する女性監督として認められた。
彼女は『アフター・ウェディング』で第79回アカデミー賞外国語映画賞に初ノミネートされ、それに引き続き再び賞レースに参加した『未来を生きる君たちへ』で、早くも第83回アカデミー賞外国語映画賞を獲得。それと同時にゴールデン・グローブ賞外国語映画賞まで受賞するという栄光を手にする。この作品で監督は、アフリカのキャンプで働く医師の父を持ついじめられっこの少年と、母親を亡くしたばかりの孤独な転校生の間に芽生える友情を軸に、「赦(yる)し」と「復讐(ふくしゅう)」についての物語を紡ぐ。それは紛争や対立によって疲弊するこの世界にまん延する「非暴力」と「暴力」にも置き換えられるだろう。人の心は常に善と悪の間で揺れ動きつつ、ある時はそれが良い結果をもたらし、そしてある時は最悪の事態を招くという現実をしっかりと見据えた本作を鑑賞し、自分の心に存在する善と悪についてもう一度問いかけてみてもらいたい。(ライター:平野敦子)
映画『未来を生きる君たちへ』は8月13日より全国順次公開