ラッセ・ハルストレム監督が来日!『アバター』の8週連続1位を阻止した新作『親愛なるきみへ』を名作に仕上げた手法とは
たった2週間の休暇中に恋に落ちた軍人ジョンと、女子大生サヴァナの切ない恋の行方を描いた映画『親愛なるきみへ』を手掛けた、『ショコラ』『HACHI 約束の犬』など温かみある人物描写に定評のあるラッセ・ハルストレム監督が来日し、全米公開当時、社会現象を巻き起こしていた『アバター』の8週連続1位を阻止した本作の裏側を語った。
原作は、2004年の映画『きみに読む物語』のヒットも記憶に新しいニコラス・スパークスの大ベストセラー。『きみに読む物語』製作当時、脚本はハルストレム監督のもとにも送られてきていたそうで、「当初の脚本はそれはひどいものだったよ。きっといいライターが改稿して、あのように素晴らしい映画にしたのだろうね」と穏やかな口調ながら、さらりと爆弾発言を繰り出した。
そんなハルストレム監督によれば、ニコラス・スパークス作品は「そのまま映像化するにはセンチメンタル過ぎる」とのこと。そこをいかにトーンダウンさせて、リアリティーのある物語にするかが映画化の挑戦でもあったそうで、ジョン役のチャニング・テイタムと、サヴァナ役のアマンダ・セイフライドのリアルな演技を引き出すために、「脚本には従わなくていい」と言い続けたという。それどころか、時には「ここに書いてあるセリフはひと言も言わないで」と言ったこともあったそうで、「まるでゲームのような撮影だった。そうして撮れた即興的な演技を、脚本と照らし合わせて編集し、完成させたんだ」と撮影の裏側を明かした。
さらに、ユニークな撮影はキャラクターに彼ら自身を強く投影させることになったという監督。特にアマンダについては、「彼女の最後のテイクは、ジョンに歌を歌うシーンだった。彼女が素晴らしい歌声を持っていることは知っていたから、恋に落ちた2人を表現するために『何か歌って』とお願いしたところ、自分で作った歌を歌ってくれたんだ。フレッシュでチャーミングな彼女らしさが出ていたよね」と目を細める。かつて、『ギルバート・グレイプ』でジョニー・デップ、レオナルド・ディカプリオを、『サイダーハウス・ルール』でトビー・マグワイア、シャーリーズ・セロンを見いだした名監督は、「チャニングは感受性に優れ、賢く、肉体も申し分ない。アマンダはオフビートな魅力とユーモアを持っている。2人とも、もうすでに十分活躍しているけどね」と若き2人の可能性についても太鼓判を押していた。
東日本大震災が発生して以来、海外の映画関係者の足は日本から遠のいたままだ。そんな中、来日を決めたハルストレム監督は、「わたしはニューヨークで911に遭遇したけど、そのときの経験からいえるのは、痛みは時が経てば少しずつ薄れていくということ。日本の被災者の方の痛みも、同じように薄れていってくれたらというのがわたしの願いだよ」との言葉を残した。そして、「だからといって、この映画を観てほしいとか、この映画が癒やしになるとは言わないよ」と加えた最後のセリフに、監督の誠実さが垣間見えた。その姿勢が、若き2人のきらめきに満ちた魅力を引き出したことは間違いないだろう。(写真・文:小島弥央)
映画『親愛なるきみへ』は9月23日より全国公開