映画をヒットさせるために恋愛要素って必要なの?松ケン、瑛太主演の『僕達急行』をめぐって大激論が勃発!!
28日、大分県の由布市湯布院公民館で開催されている第36回湯布院映画祭で、森田芳光監督、三沢和子プロデューサー、東映の白倉伸一郎プロデューサーが出席して行われたクロージング上映作品『僕達急行 A列車で行こう』のティーチインで、映画をヒットさせるためには恋愛要素が必要かどうか、大激論が勃発(ぼっぱつ)した。
本作は、鉄道を偏愛する大手不動産会社に勤める圭(松山ケンイチ)と、町工場の2代目・健太(瑛太)が旅先で出会い、意気投合。職場での直言癖が災いした圭は九州支社へと左遷となり、一方の健太の町工場も不景気のあおりで経営難に。そんな状況でものほほんとマイペースだった2人に思いがけぬチャンスがやってくるという物語。この作品のベースには、同じく森田監督がメガホンを取った『間宮兄弟』があったという。森田監督は「実は『間宮兄弟』をシリーズ化するという話があったけど、小説家の方で断られてしまいまして。そんなときに、この関係性は血のつながった兄弟でなく、他人同士でもできるんじゃないかと思ったんです」と本作のインスピレーションを明かした。
続けて森田監督が、「趣味が7で、恋愛が3と趣味に偏っていて、女性よりも趣味が勝ってしまうような人を描きたかった」と本作を解説すると、観客が反論。「せっかく松山ケンイチと瑛太を出演させるなら、もう少し恋愛の要素を強めた方がヒットするんじゃないか。映画はヒットさせなければ意味がない」と男性客が問題提起し、そこから会場は「映画をヒットさせるために恋愛の要素は必要なのか」というテーマで激論となった。
年配層の多い観客からは「鉄道好きな女性を登場させて、恋愛ものを絡めたらどうか」「若者はもっと肉欲的」「実はこの2人は同性愛なんじゃないか」といった意見が飛び出し、白倉プロデューサーからも「2人はアジアでは絶大なる人気があるんですが、アジアでは恋愛要素がないとヒットしないらしい。アジア向けは『僕達恋急行』にしましょうか」といった冗談も。たが、そんななか、主人公と同年代だという男性客は「世代が近いせいもあると思いますが、僕は彼らに共感しました。(恋愛要素が少なくても)自信を持っていい映画だと言えます」と絶賛。同性愛説を即座に否定した森田監督は「(恋愛要素を入れるべきなのか否か)どうすればいいんだ!」と頭を抱えてみせ、会場を笑わせたが、「バカでもわかるような映画が当たり前のように作られるようになって、日本の映画文化がどれだけ貧しくなってきたか。森田監督のような才能のある監督には自分の作りたいように作ってもらいたい」と観客からエールが送られると会場からは大きな拍手が起きた。
本作の独特なユーモアセンスはどこか森田監督のデビュー作『の・ようなもの』や自主制作時代の『ライブイン・茅ヶ崎』といった世界観を持っており、「森田監督、おかえりなさい!」と言いながらその点を指摘する観客も多かった。森田監督自身も多くの人から「昔の森田が戻ってきた」「昔の森田は良かった」といった指摘がされるそうで、「何でだろうなと考えたんですけど、『の・ようなもの 』とか『家族ゲーム』を撮っていたころって僕の青春時代だったんです。それから僕が映画監督としてだんだん認められるようになると、観客の皆さんは仕事で忙しくなって、映画どころでなかったんじゃないかな。その間、『失楽園』とか『黒い家』とかコンスタントにいい映画は撮っているんですけどね」とボヤいてみせると、観客が「いや、わたしは仕事の忙しい合間を縫って映画を観続けてきた」と応戦。「もちろんそうだと思います。でもそういう観客は一部なんです」と遠慮のないやりとりがなされ、会場は笑いに包まれた。(取材・文:壬生智裕)
映画『僕達急行 A列車で行こう』は2012年3月より全国公開