急死した女優・林由美香の遺体第一発見時の記録がそのままカメラに収められ映画として公開されるまでの葛藤
9日、代官山の風土カフェ&バー「山羊に、聞く?」で映画『監督失格』公開記念「映画鑑賞者限定トークバトル『監督失格』ってなんだ!?」が行われ、平野勝之監督が映画評論家の切通理作、放送作家の町山広美と共に「観た後についつい語りたくなる」本作について、ネタバレ込みで徹底的に語り合った。
9月3日にTOHOシネマズ 六本木ヒルズで先行公開された本作。男性客のみならず女性客も多数来場しており、終映後に拍手が起きることもあるなど、 女優・林由美香さんを失った監督・平野勝之の悲痛な叫びに言葉を失う観客が続出。観る者の心をかき乱しながら、ツイッターやブログなどでも「席が立てなかった」「号泣した」「放心状態になった」といった意見が散見される。
女優・林由美香の魅力は、男にこびないズケズケとした物言いや、開けっぴろげなところにあった。ベロベロに酔った姿も、痴話げんかも、すっぴんも、わき毛の処理をする姿なども、普通の女優なら撮らせたくないような恥ずかしい姿も「面白ければよし」として積極的に撮らせる。劇中では、むしろそういうシーンを撮り損ねた平野監督に対して、「監督失格だね」といさめるほどだった。平野監督も「今思うと恋愛を超えていますよね。お互いが作品至上主義でつながっていたというか、映画を作る上での相性が合うんでしょうね。今、そういう人っていないんですよ。戦友だったんでしょうね」としみじみ振り返った。
平野監督は由美香さんの遺体の第一発見者であり、偶然にも床に転がったカメラがその一部始終を記録していた。愛する人の喪失を確信した瞬間を映し出した映像はあまりにも突然で、あまりにも悲痛だ。「あのテープに関しては、後日、何であのときにカメラが回っていたんだとママが僕に疑惑を抱いたんですよ。でも僕はこれを発表するつもりもなかったから、弁護士を交えて封印することにした。ハンコを押したことでようやくママが安心してくれた」と平野監督はいわくつきの映像について語っていた。
しかしそれから時が過ぎて、由美香ママ自ら「使っていいよ」と映像の使用許可を出す。「これを公開したら『人の死を商売するのか』と言う人も出てくると思いますけど、どう思います?」と平野監督は心配したそうだが、「おれの目を見て『わたしは気にしてないよ。あの映像があった方が盛り上がるだろ』と言うんですよ。この人、本当に由美香のママなんだなと思いました。普通そんなことを言わないだろとビックリしますよね」と明かす。劇中で由美香ママは「人間は2度死ぬって言うじゃない。本当に死んだときと忘れられたときってね」とつぶやくシーンがあるが、この映像の使用許可を出したことについて、「これは僕の推測ですが、もしかしたら、ママは由美香のことを忘れたくないから、映画を作ってほしかったのかな」と平野監督。ちなみに本作を観た由美香ママの感想は「うーん、泣けるね」だったとのこと。その腹のすわり方には、さしもの平野監督もタジタジだったようだ。
観た後は言葉を失い、やがてじわじわと熱い気持ちがこみ上げてきて、誰かと話したくなる。そんな作品だけあって、会場にいた3、40人ほどの観客全員が平野監督に熱心に感想や質問をぶつけ、イベントの終了時間は大幅にオーバー。映画同様の熱気に会場は大盛り上がりだった。(取材・文:壬生智裕)
映画『監督失格』はTOHOシネマズ六本木ヒルズにて独占先行公開、10月1日より全国拡大公開