日本映画初の快挙!ベネチア映画祭オリゾンティ賞受賞の塚本晋也監督、震災後の撮影続行への葛藤を明かす
第68回ベネチア国際映画祭
現地時間10日、第68回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で最高賞のオリゾンティ賞を受賞した『KOTOKO』の塚本晋也監督が現地時間10日、日本のメディア向けに喜びのコメントを語った。日本作品の同賞受賞は初めて。
塚本監督は2002年に、映画『六月の蛇』で同映画祭コントロコレンテ部門(現・オリゾンティ部門)で次点にあたる審査員特別大賞を受賞しているが、その際は前日に受賞結果を知らされたという。しかし今回は、授賞式で名前を読み上げられて初めて知ったそうで「わらわらと賞をいただいちゃってまだ実感が沸かなくて……。しかも前回は審査員特別大賞だったけど、今回はこんな良い賞を頂いてびっくりしちゃって……」と国際映画祭慣れしているはずの“世界のツカモト”らしからぬ発言を連発していた。
今回の作品は、塚本監督の中でも特別なものだった。今冬に準備をはじめ、クランクイン前の撮影安全祈願を行った日に東日本大震災が起こった。このまま撮影を行うか否か、逡巡したという。その時の心境について塚本監督は「劇中に赤ちゃんが出てくるんですけど、放射能汚染が広がっていてお母さんたちが神経質になちゃって。それに、節電対策が叫ばれている中、夜にライトをこうこうと点け撮影する気にもならなかったし、僕自身も(精神的に不安になり)弁当を食べる気持ちにもなれなかった」と言う。
しかし本作で、子どもを大切に思うがあまりにエキセントリックになる主人公・琴子(Cocco)と、子どもへの放射能の影響を懸念する母親たちの姿が重なって見えた。「だから、今こそ琴子を見てみらいたいと思ったし、(子どもたちの健康を)心配する人たちにエールを送るというか、一緒に大事に思う人のことを考えていきたいと思った」と撮影を決断した理由を明かした。
脚本は震災前に執筆したものだが、劇中には震災の影響が随所に見られる。琴子が見ているテレビに枝野幸男官房長官を彷彿とさせる人物(※似ているとウワサのCoccoの事務所の社長)が登場したり、折り紙で鶴を折る印象的なシーンもたびたび登場する。
塚本監督は「やはりCoccoさんが震災に激しくショックを受けて、劇中で折った鶴をその後、被災地に持っていったり、僕も参加した『0円ポッキリ!完全自主制作映像!Inspired movies(インスパイアード・ムービーズ)』の売上金を全部、義援金として送っていた。震災は不幸なことだったけど、今ならではの映画を作れたと思う。本当に、いつもより短い期間でCoccoさんとセッションしながら作り、普遍的な映画になったと思う」と被災者のことをおもんばかった。
ちなみに、Coccoへの報告は? と尋ねると「あっ、(気が動転して)電話というものがあることすら忘れていた。これから連絡します」といそいそと携帯電話を取り出していた。(取材・文:中山治美)
映画『KOTOKO』は2012年春公開