イラン政府による圧力で活動休止を発表!世界的に評価の高いマド・シルワーニ監督、イラン国内では作品が1本も上映されず
山形国際ドキュメンタリー映画祭2011の各賞の発表が12日、行われた。その直後、観客賞にあたる市民賞と、全国で上映活動を行っている団体が選ぶコミュニティシネマ賞の2冠を受賞したイラン映画『イラン式料理本』のモハマド・シルワーニ監督が緊急会見を行い、イラン政府による映像作家に対する圧力が激しさを増している状況を鑑み、製作活動を休止することを発表した。
シルワーニ監督はイラン・テヘラン出身で、初の短編映画『ザ・サークル』はカンヌ国際映画祭国際批評家週間に選出。以降も精力的に作品を発表し、『大統領ミール・ガンバール』は2005年の山形のアジア千波万波部門で奨励賞を獲得。2008年製作の『7人の目の見えない女性映像作家たち』でも山形に参加している。それら18本の映画は世界中の映画祭で上映され50以上の受賞歴を誇る。もっとも、今回の受賞作『イラン式料理本』をはじめ政治色の強い作品はないのだが、国内では一本の上映もされていないという。
シルワーニ監督は「イランの映画人を巡る状況は厳しさを増しており、イランと他国の政治的な問題が私たちに影響を及ぼしています。例えば作品が英国BBC放送で放映されたというだけで、逮捕された監督もいます。イラン政府はもっと国民を大事にすべきだと思います。しかし、国内でこのような状況が続き、身の安全が確保出来ない限り、私はドキュメンタリーを作らないことにきめました。私はこれからイランに帰ります。しかしドキュメンタリーを作らないと決めた以上、職業を変えなければならず、経済的にも困るかもしれません。でも私はイランが好きです。移住も考えていません」と一気に自分の思いを語った。
しかし、せっかく賞を与えてくれた観客や、これから『イラン式料理本』の日本公開を支援してくれることを約束してくれたコミュニティシネマの方たちに申し訳なく思っているようで「せっかく賞をくださった方たちに、苦い気持ちを持って欲しくはないのですが。今の私は、身の安全が確保出来ることが一番の希望なのです」と溢れる涙をサングラスで隠しながら声を絞り出した。
イランでは、『白い風船』などで知られるジャファル・パナヒ監督が、反体制的な映画を作ったとして禁固6年、映画製作禁止20年の判決が下されるなど、映像作家への締め付けが世界的な批判を浴びている。それだけに、このような会見を開くこともどのような影響が及ぼされるか分からず、シルワーニ監督に対して他のイランの監督たちは「やめた方がいい」と説得をしたという。そこをあえて自らの口で心情を語ったシルワーニ監督。無事の帰国と、再び自由に映画が作れる日が来ることを祈るばかりだ。(取材・文:中山治美)
受賞結果は以下の通り。
【インターナショナル・コンペティション部門】
●ロバート&フライシス、フラハティ賞(大賞)
『密告者とその家族』(米国、イスラエル、フランス)
ルーシー・シャツ&アディ・バラシュ監督
●山形市長賞(最優秀賞)
『光、ノスタルジア』(フランス、ドイツ、チリ)
パトリシオ・グスマン監督
●優秀賞
『アブダ』(中国)
ホー・ユェン監督
『5頭の象と生きる女』(スイス、ドイツ)
ヴァディム・イェンドレイコ監督
●特別賞
『殊勲十字章』(米国)
トラヴィス・ウィルカーソン監督
【アジア千波万波部門】
●小川紳介賞
『雨果の休暇』(中国)
グー・タオ監督
●奨励賞
『アミン』(イラン、韓国、カナダ)
シャヒーン・パルハミ監督
『龍山』(韓国)
ムン・ジョンヒョン監督
●特別賞
『ソレイユのこどもたち』(日本)
奥谷洋一郎監督
『柔らかな河、鉄の橋』(ベトナム)
チャン・タイン・ヒエン監督ほか
『水手』(シンガポール、セルビア、モンテネグロ)
ヴラディミル・トドロヴィッチ監督
【市民賞】
『5頭の象と生きる女』(スイス、ドイツ)
ヴァディム・イェンドレイコ監督
『イラン式料理本』(イラン)
モハマド・シルワーニ監督
【コミュニティシネマ賞】
『イラン式料理本』(イラン)
モハマド・シルワーニ監督
東日本大震災復興支援プロジェクト「ともにある Cinema with Us」
【日本映画監督協会賞】
『監獄と楽園』(インドネシア)
ダニエル・ルディ・ハリヤント監督