天皇コラージュ作品問題でタブーに触れた大浦監督が、新右翼の活動家・見沢知廉のドキュメンタリーを作った理由とは!
1994年に獄中で書いた「天皇ごっこ」で新日本文学賞佳作を受賞し、2005年に自宅マンションから転落して死去した思想家・見沢知廉(みさわちれん)のドキュメンタリー『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』を監督した、大浦信行が撮影について、見沢の人間像について語った。
映画『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』フォトギャラリー
本作のオープニング、生前あるトークライブに出演して語っている見沢の肉声が響く。始めは静かに、まるで酔っているかのようにゆらゆらと語り始めた見沢の声は、次第に激昂し、最後は壮絶な叫びへと変わっていく。あまりにもインパクトの強かったオープニングだが、大浦監督は「見沢さんの話し方って、薬かなんかでラリってるんじゃ?……って思いませんでしたか? でも、彼は全く酔っていないし、薬を飲んでいるわけでもなく、もともとああいう話し方をする方なんですね。あの語りには、見沢さんが抱えていた時代への焦りや、やるせなさが集約されていた気がしたんです」という。「最初は、ぼそぼそと、おれはダメなんだ、もう三回も死んでいるんだ、没落していくだけだ……などと社会に適応できない焦燥感、自分の弱さ、を語りながら、自分の心の闇におりていく。その後、あるときハッとして、狂ったように外に向けての叫びに反転していく。僕はその両極端な姿にとても惹かれたんです」と話す監督の言葉どおり、心の闇に真摯に立ち向かおうとする自分と、そんな自分に対して嫌悪感が増していき、世界に向かった怒りを吐き出す。その揺れの極端さは、本作のサブタイトルである「たった独りの革命」を生きた、見沢のすべてを語っている。
見沢には、新左翼として、1978年三里塚闘争で成田空港占拠闘争の最前線を戦ったのち、新右翼へと身を転じ、イギリス大使館への火炎瓶ゲリラなどを指揮。1982年にスパイ疑惑のあった同志を鉄パイプで殴ったすえに、絞殺した遺体を青木ケ原の樹海に遺体を遺棄。懲役12年を言い渡され、千葉刑務所にて12年間収監されたという衝撃的な過去がある。本作では、その壮絶な過去にも触れており、青春時代から見沢とすべての行動を共にした親友の設楽秀行が、当時の生々しい殺害の様子を淡々と語るシーンが登場する。一点を見つめながら、見沢と共に犯した殺人のすべてを語る設楽の姿は、強い印象をスクリーンに残す。大浦監督は、「設楽さんが、おれには見沢が必要で、見沢にはおれが必要だった、と話されたんです。運命の出会いともいえるような二人の関係は、とても印象的でした」と話した。
大浦監督は、昭和天皇を主題としたシリーズ「遠近を抱えて」で、天皇制とタブー、検閲について、社会・美術・言論界に問題を提起して話題を呼んだ人物。左翼的な印象の強い大浦監督だが、本作には、設楽のほか、一水会顧問の鈴木邦男、登場民族の意志同盟中央執行委員長の森垣秀介や、統一戦線義勇軍議長針谷大輔など、民族派と呼ばれる対照的な思想家たちが登場する。「ぼくは天皇作品問題などがあったので、誰から見ても左翼っぽく思われていると思うんです。でも表現はイデオロギーで表現するとつまらないものになってしまうと思うんです。形だけでの拍手はいらないし、それは単なる自分の思想を押し付ける、プロパガンダ映画になってしまう。でも映画は、そういうものをすべてとっぱらった裸の自分が作るものだと思って作りましたし、ぼくのような札付きの監督の作品に、これだけ多くの民族派の方々が出演していただいたことにとても感謝しています」と話した。
劇中でも設楽が話しているとおり、見沢の原点は、彼が10代のとき1978年の成田空港占拠闘争がすべてだった。若者たちが一夜にして管制塔を制圧し、一瞬ではあるが、成田の開港を阻止。その後、思想の違いから、新右翼に身を転じた見沢だったが、国家権力を切り裂いた革命への炎は消えることはなかった。「見沢さんは、ずっと社会を変えたい、という気持ちがあった。70年代の幻影を抱えながら生きてきた人です。でも、貧困の問題などという、いまの若いひとたちが抱えている閉塞感と、70年代前後に見沢を始めとする若者が抱えていた焦燥感は重なっていくと思います」と語った大浦監督。見沢に影響を受けた人間のみならず、見沢の存在を知らなかった人間にも、「いつか日本社会を変える」という野望の炎を燃やしながら生きた見沢の生き様をスクリーンを通して体感してもらいたい。また、上映期間中には多くの思想家、活動家、ジャーナリスト、作家、評論家が本作と、見沢の小説「天皇ごっこ」について激論を交わす予定。29日は、一水会顧問の鈴木氏がトークに登場し、会場を沸かせた。
~映画『天皇ごっこ 見沢知廉・たった一人の革命』トークセッション日程~
10/30(日)田原総一朗(ジャーナリスト)
11/3(木・祝日)植垣康博(元連合赤軍兵士)
11/5(土)篠田博之(月刊「創」編集長)
11/6(日)福住廉(美術評論家)
11/11(金)雨宮処凛(作家)