デヴィッド・クローネンバーグ監督の新作で精神分析学者カール・ユングに挑戦したマイケル・ファスベンダーを直撃!
映画『イングロリアス・バスターズ』や『X-MEN : ファースト・ジェネレーション』で注目を浴び、現在は話題作に立て続けに出演している俳優マイケル・ファスベンダーが、新作『ア・デンジャラス・メソッド(原題) / A Dangerous Method』について語った。
同作は、駆け出しの精神分析学者のカール・ユング(マイケル・ファスベンダー)は、ロシア出身の統合失調症患者ザビーナ・シュピールライン(キーラ・ナイトレイ)の治療を始めたが、特殊な症例であったため、ユングの師であるジークムント・フロイト(ヴィゴ・モーテンセン)にアドバイスを受けることになる。ところが、ユングとサビーナとの関係が親密になり、3人の関係に変化が生じていくというドラマ作品。デヴィッド・クローネンバーグ監督とヴィゴ・モーテンセンは、映画『ヒストリー・オブ・バイオレンス』、『イースタン・プロミス』以来、今度で3度目のタッグを組んでいる。
カール・ユングがプロテスタントの牧師の家庭に生まれた影響について「そうなんだ。かれの父と叔父のほとんどがプロテスタントの牧師をしていて、彼の成長期はかなり宗教的な環境で育ったんだよ。だが、ユングは神の光明を得ずに宗教から離れていくことになるんだ。(これは、ユングが信仰に対して疑問を持っていたことかららしい)それと、当時のスイス(ユングの母国)では神秘主義に傾倒している人が多く、ユングの母親もそうだった。その神秘主義と心霊研究は、彼の精神分析学において重要な位置を占めることになるんだ」と語った。
ユングとフロイトの方向性の違いについて「彼ら二人は精神分析の世界では偉大な権威だった。ユングにとってフロイトは父親的存在として、特に彼の人生の前半期では畏敬の念を示したと思うんだ。もっとも、彼らの方向性が違っていくのは、いろいろな要素があると思うんだ。フロイトは、ユングと違い、神秘主義、心霊研究、宗教的観念などから精神分析を行っていないんだ。できる限り宗教的な含蓄から離れようとしていた。フロイト自身はユダヤ教徒であるため、彼のコミュニティ(ユダヤ教徒たち)からは精神分析が、(ユングの取り入れていた)神秘主義などには全く関係ないと言われていたんだ。だが、弟子は自分の道を切り開こうとするならば、師匠から離れることは避けられないことではあるはずだ」と彼なりの見解を述べた。
ザビーナ・シュピールラインがフロイトとコンタクトを取った理由とは「フロイトが精神分析のリーダー的な存在であることはもちろんだが、ユングとの関係についても告げたかったこともあると思う。後にシュピールラインは、ユングの患者として成長して、彼女自身も最終的に精神分析学を学ぶことになるんだ。シュピールラインはスマートな女性で、知識をパワーとしてできる限り学ぼうとしていたんだよ。だから、確かにユングとの関係をフロイトに告げたかったこともあるが、シュピールライン自身の精神分析への教育的な興味からでもあると思うんだ」と述べた通り、シュピールラインのユングとフロイトのかかわりが、とても面白い作品に仕上がっている。
最後にマイケルは、ヴィゴ・モーテンセンとは非常に友好的でユーモアのある関係を築き上げながら仕事ができたこと教えてくれた。マイケルは、今後公開される予定の映画『シェイム(原題) / Shame』では、ベネチア国際映画祭で男優賞を受賞し、さらにリドリー・スコット監督と組んだエイリアンの外伝、映画『プロメテウス(原題) / Prometheus』が控えている。今後、ますます彼に注目が集まりそうだ。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)