もし子どもが無差別殺人を犯したら?議論を引き起こす話題の新作について、オスカー女優ティルダ・スウィントンが語る!
映画『フィクサー』でアカデミー助演女優賞を受賞したティルダ・スウィントンが、サンダンス映画祭で話題になった新作『少年は残酷な弓を射る / We Need to Talk About Kevin』について語った。
同作は、エヴァ(ティルダ・スウィントン)はキャリアを諦めて息子ケヴィン(エズラ・ミラー)を出産することになるが、そのせいか小さい頃からケヴィンと彼女の関係は上手くいかなかった。そして、ある日16歳になったケヴィンは、高校で無差別殺人を起こしてしまう。エヴァは、自分の子育てに疑問を感じ、ケヴィンの犯した罪において自分の非を追及していくというドラマ作品。父親役に映画『シカゴ』のジョン・C・ライリー、監督は映画『モーヴァン』や『ボクと空と麦畑』のリン・ラムジーがメガホンを取っていて、作家ライオネル・シュライバーの同名小説を映画化している。
1999年4月に起きたコロンバイン高校乱射事件を彷彿させている点について「その点については、ある意味イエスで、ある意味ノーでもあるの。それは、わたしにとっては、この映画は人の心の中を描いていると思っているからで、もし観客がコロンバイン高校乱射事件のようなものを想像しているのなら、きっと満足する映画にはならないと思うからなの。それにこの映画は、不快な感情を観客に提供していて、ケヴィンの母親と父親がいかにその後の生活を過ごそうとしているかに焦点を当てているの。だから、無差別殺人という暴力よりも、むしろ息子が起こした事件に対して、そんな子どもを産んでしまったことへの罪という名の(周りからの)暴力を受け入れようとする点に注目してほしいわ」と親子関係を重要視した。
自分の子どもが、自分が思っていた通りに育たないことに関しては、どの母親も共感が持てるのではないかとの質問に「映画内のように無差別殺人を犯すまでではないけれど、自分の子どもが自分が思っていた通りに育たないことに関しては、どの母親(観客)も共感が持てるのではないかしら。この映画の中で、わたしの子育てに最も役立ったことは、すべての母親たちは、子どもをどのように育てていいか良くわかっていないという事実ね。(完全に理解できるものではないということ)つまり、毎日が子どもとの勝負で、子どもをどのように育てていいか良くわかっていないということを自分に言い聞かせながら、子育てをすることがむしろ大切だと思うわ」と双子の母親でもある彼女らしい言葉を残した。
監督リン・ラムジーとの仕事について「まずリンとは、(脚本を通して)それぞれのキャラクターの関係が、その関係次第で言葉の表現の仕方が極端に変わっていることを話し合って、ライオネル・シュライバーの原作とは違った雰囲気を作り上げていこうとしたの。だから、それぞれのシーンとシーンが全く別の雰囲気で描かれ、(心の中で)シーンが蒸発していくような感じで、心に残っていくの」と明かした。
映画は、人間観察の素晴らしさだけでなく、人との接し方、家族との付き合いなど、いろいろな意味で考えさせられる映画に仕上がっている。今のところ批評家の間では、ティルダ・スウィントンがアカデミー主演女優賞候補になるとみられている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)