英国インディペンデント映画賞で話題になった作品『キル・リスト』とは?
昨年の英国インディペンデント映画賞で、5部門の主要カテゴリーにノミネートされた話題の独立系作品『キル・リスト(原題)/ Kill List』について、ベン・ウィートリー監督が語った。
同作は、前回仕事に失敗した殺し屋のジェイ(ニール・マスケル)は、しばらく仕事がなかったために収入がなく、未払いのクレジットカードの代金がたまり、妻シェル(マイアンナ・バーリング)からも嫌みを言われる生活を送っていた。だがある日、彼の相棒ギャル(マイケル・スマイリー)に高額な報酬が得られる殺しを持ちかけられ、活動を再開する。ところが、すぐに想像できない出来事に巻き込まれていくというスリラー/ドラマ作品。監督は、テレビシリーズ「アイディール(原題) / Ideal」を手掛けてきたベン・ウィートリーがメガホンを取っている。
ベン監督は、もともと短編作品用に執筆した脚本を新たに長編作品用にしたそうだ。「実は経済不景気に影響を受けたカップルが銀行強盗するという短編を、この映画にも出演しているニール・マスケルとマイアンナ・バーリングで描く予定だったが、その短編を制作せずに、ニールとマイアンナのカップルの関係だけを残して、脚本を長編作品用に大幅に変えたんだ」と述べ、さらにこの短編を長編に変えただけでなく、すでに書いていたもう一つの長編用のアイデアも、この作品に組み合わせて一つにまとめたこともつけ加えた。
映画内で、ニール・マスケルが演じたジェイとマイアンナ・バーリングが演じたシェルの関係について「彼ら二人は、しばらくジェイの収入がなかったために、非常に口論が多かったり、暴力的な関係だったりするが、それでも愛し合っている仲なんだ。こういう関係は映画ではもっとシンプルにわかりやすく描かれるのだろうが、実際には叫び合うような激しい仲でも、それほど悪い関係ではないようなカップルは居ると思う」と語る通り、現実味のあるカップルのシーンが、映画内では殺人を犯す殺し屋としてのシーンと、同様な緊張感を保っていてる。
この作品は、サム・ペキンパー監督の映画『ガルシアの首』を彷彿させ、殺し屋としての緊張感とコミカルな要素が同居している点について「人生自体は悲劇だったり、おかしかったりするが、映画では特にホラー分野ではユーモアが少ないと思うんだ。『インディ・ジョーンズ』シリーズはホラー作品ではないが、インディはそれまで彼に起きた危険なことがあっても、ジョークを言ってみせたりする余裕があり、僕はそういうリアルなところがすごく好きなんだ。それに、一般的に年齢が上がれば上がるほど、人としていろいろな振る舞いや行動のパターンが増えるはずで、ただストイックな顔や恐怖の顔だけをしているようなホラー映画は不自然であって、むしろ『インディ・ジョーンズ』のジョークのほうがより現実的だとも思っているんだ」と語った。ところどころ真剣な眼差しでジョークを言うニール・マスケルの演技に注目だ。
映画は、殺し屋として任務を遂行しながら、ハンマーで頭をかち割るなどの圧倒的なバイオレンスとみなぎるテンションが強烈に身体に迫ってくるような作品に仕上がっている。ベン・ウィートリー監督の次回作は、SF作品を手掛ける予定でいるそうだ。今後の彼の作品にも期待できそうだ。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)