賛否両論の映画『311』「遺体を映して金もうけをしている」という批判に監督「稼ぎたかったら別のことをやっている」
8日、東京の座・高円寺で開催中の「座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル」で、映画『311』の上映後、共同監督を務めた森達也、安岡卓治、綿井健陽、松林要樹が出席、本作について語った。
「誰も、観たくなかったはずのドキュメンタリー。」というキャッチコピーが付けられた本作。東日本大震災発生から15日後となる3月26日に4人は震災の被害にあった福島、岩手、宮城を縦走した。しかし、搬送中の遺体にカメラを向けたことから、遺族に「なぜカメラを向けるのか」と詰め寄られるシーンまでが劇中に登場するなど、まさに賛否両論の渦を沸き起こした。
これについて森は、「ネットでは、遺体をたくさんさらした映画みたいに誤解が広がっていて。遺体を使って金もうけをしやがってという意見がたくさんありますが、賛否両論がなければ公開する意味はない」とキッパリ。また、「金もうけをしている」という批判については、「ドキュメンタリーでは金は稼げない。金を稼ぎたかったら別のことをやっている。称賛されるでも罵倒(ばとう)されるでもいい。とにかく観てもらいたいだけ」と語る。
そして、遺族にカメラを向け「今のお気持ちはどうですか?」と問いかけるようなマスメディアの行為を、「バカですよね。でもそうしないと画も撮れないし、話もわからない。メディアというものはそういう仕事だと、自分をごまかしている」と自虐的に語る森。一方で、見渡す限りのがれきや、遺体を目の当たりにして、「何を聞けばいいのか。そもそも何をしにここに来ているのか。僕らだけでなく、ほとんどのメディアが立ちすくんでいた」と当時を述懐。
森は、そう感じた背景には「うしろめたさ」があるからだと指摘する。「これまでも四川やハイチ、スマトラと世界では大勢の人が泣いてきたのに、自分は何も感じてこなかった。しかし311以降、自分の冷酷さに気づいてしまって納得できない。だから、うしろめたさがキーワードなんです。つらいからがんばれとか、きずなとか、そっちだけに行っちゃ駄目です。うしろめたい思いをしっかりと見つめないと」と観客に呼び掛けていた。(取材・文:壬生智裕)
映画『311』は3月3日よりユーロスペースほか、全国順次公開