『五条霊戦記//GOJOE』以来、約10年ぶりの劇場長編映画!石井岳龍監督『生きてるものはいないのか』に込めた思い
人気劇作家・前田司郎氏の伝説的傑作戯曲『生きてるものはいないのか』を劇場用長編作品に仕上げた石井岳龍監督に、現在創作の拠点としている神戸での撮影時のエピソード聞いた。
本作は、怪しい都市伝説がささやかれるある大学を舞台に、次々と謎の最期を迎える18人を描いており、オフビートなギャグと石井作品には欠かせない音楽、スケールの大きな映像で構成された映画に仕上がっている。現在、神戸芸術工科大学で教鞭をとっている石井監督だが、本作のスタッフ&キャストには彼の教え子たちが積極的に参加、プロの俳優たちと同等に競演しているなど、新しい才能が至るところにちりばめられているのもこの映画の特徴。
今回、前田司郎氏と映画版の脚本を構成する上で、石井監督は「登場人物や脚本の細部を詳細に吟味していったが、オリジナルを読み込めば読み込むほど、この作品が磐石に構成されていることに気付かされた」と述べており、「最終的にはなるべくオリジナルを生かし、その上で映画的な構成にするように話し合った」とお互いのコラボレーションを高評価。
また、本作で独特な存在感を放つ学生の役者とプロの俳優の起用については、プロの俳優陣へのねぎらいを吐露。「多分、プロの俳優の皆さん、苦労されたと思います。こいつら何者だろう。さて、どうしようかって。(笑)学生に関してはオーディションで選んだんですが、実は前田君のオリジナルを読みながらすでに『あー、いるいる、こういうヤツ』とうなずけるキャラクターの持ち主達がまわりにいたので、楽しかったです」と振り返った。
『五条霊戦記//GOJOE』以来、約10年ぶりの劇場長編映画の公開だが、今の日本映画界における自らの役割にも言及。「今の日本映画業界は、興行収入や観客動員数も減っており、観る人が映画館で観たいと思わせるためにも、また、将来の才能ある人材育成のためにも、自分たちに与えられた事を確実にしていかないといけない。そのためには、技術や道具は揃っているので、自分たちの知恵を結集して映画館でしか体験できないことが詰まっている映画を作っていくことが大事。本作はそういう自分の思いが詰まった作品です」と語った。
最後に「監督自身に“最後の瞬間”が訪れるとしたら何をしているか?」という質問をすると、「その答えは決まっています。最期の瞬間に直面しても、きっと今のように当たり前のことを普通にこなすだけです」と即答。「実はわたしたちは今を生きることをせずに、過去を悔やんだり、将来にあせったりして今をやり過ごしてしまいがち。この映画を観た人には、“今を生きる”ことをいろんな登場人物の角度で再発見してくれることを望んでいます」と自らの改名後、初の劇場公開作品となる本作を、観客がどのように楽しんでくれるかと待ち望んでいる期待感がひしひしと伝わってきた。(高松美由紀)
『生きてるものはいないのか』は、2月18日よりユーロスペースほか全国にて順次公開予定