山下敦弘監督『苦役列車』完成で「森山未來、高良健吾、前田敦子でしかあり得ない」とキャストを絶賛!
第144回芥川賞を受賞した西村賢太の私小説を映画化した『苦役列車』が完成し、試写を終えたばかりの山下敦弘監督が率直な心境と、キャスティングについての意図を明かした。
日雇い労働で稼いだ金を、酒とタバコと風俗に費やす日々を送る19歳の青年・北町貫多の人間性を浮き彫りにする本作。原作を読んで、「面白いんだけど、どう映画化すればいいのかわからなかった」という山下監督は、原作者・西村の分身ともいえる北町を描くことに対し、「最初は100パーセント西村さんの物語なのかなと思っていたんですけど、西村さん本人と会ううちに『フィクションなんだな』と思うようになった。だから、映画は映画でいいんだと思いました」と語る。
中卒で、父親が性犯罪者という強烈なコンプレックスを抱え、卑屈な生き方しかできないダメ男。そんな貫多役に「この役を誰ができるだろうと考えたとき、森山くんしかいなかった」と森山未來を据えた山下監督は、貫多と対照的な青年・正二に高良健吾を、そして、貫多が思いを寄せる映画オリジナルのヒロイン、康子にAKB48の前田敦子をキャスティングした。
このコラボレーションに「ここ最近の作品の中では、ものすごく自由度が高かったんですよ。ふたを開けてみたら好きな人ばかりそろった」と笑顔を見せる山下監督は、「今となっては、この三人でしかあり得ない」と断言。話題となった前田の出演についても、「森山くんと高良くんという、映画を中心に活動する実力のある二人に対し、映画畑ではない人を持ってきて化学反応を起こしたいと思ったときに思いついたのが、AKB48でセンターを張っているのにどこか陰があって、どこにも属さない感じがする前田さんだったんです」とその意図を説明。
そして、「彼女は役者・前田敦子としてそこにいたと思うんですけど、どこかにやっぱりアイドルが染み付いている。それが逆に良かった。そうかと思うと、20歳の普通の女の子にもなれる。集中力と切り替えがすごいですね。まだまだいろいろな役をやれると思います」と撮影を通じて感じた、同世代の女優にもほかのアイドルにもない前田の魅力を語った。
作品については「まだ興奮状態で消化しきれていない」としながらも、「素材を全部生かしました。多くの人に受け入れてほしいと思います」と語った山下監督。試写を観た西村から「原作とは別のものとしてすごく楽しめた」と言われたといい、「狙い通りだなと思いました」と笑った。この映画を観た後には、監督の狙い通り、誰しもが圧倒的な泥くささの前に打ちのめされることだろう。(写真・文:小島弥央)
映画『苦役列車』は7月14日より全国公開