名優ベン・キングズレー、役へのアプローチは「日本画の筆遣いのようにシンプル」
映画『ガンジー』『シンドラーのリスト』など数々の名作で主演から助演まで幅広い役柄を演じてきたイギリスの名優ベン・キングズレーが、出演最新作『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』の秘話と合わせて、自身が俳優になった経緯を明かした。
映画『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』フォトギャラリー
同作は、自由の国アメリカで身元不明となった世界一危険な独裁者アラジーン(サシャ・バロン・コーエン)に襲い掛かる、人生最大の試練と恋を描いたコメディー作品。監督は、ラリー・チャールズが務めている。
ベンは今回悪役だが、「僕はいつも、真実や人間性を反映している良い役柄を探しているんだ」と役を選ぶ基準を語り、今回の役について「コンピューターやテレビのニュースで見掛けるような、常に独裁者の後ろにいる人物を意識したんだ。サングラスを掛けて、スピーチを半分聞きながら監視を続け、何を考えているのかよくわからない連中に注目したんだよ」とキャラクターづくりの一端を披露。
実際、劇中には、サシャ演じる独裁者が現在のアメリカの状況を語るスピーチが出てくるが、「この作品がコメディー映画であることで、独裁者が話す真面目なスピーチに拒否反応を起こさずに聞くことができて、印象に残るシーンになったんだ」と語り、観客の受けも良かったとにっこり。
そもそもベンが俳優を志した理由は何だったのだろうか? 「音楽でデビューするオファーと同時期に、ロイヤル・シェクスピア・カンパニーの舞台オーディションがあって、同カンパニーの俳優たちのシェイクスピア劇を観賞して、僕は俳優の道を選ぶしかないと思ったんだ」と運命的な出会いを告白。しかも、ロック・ミュージシャンを職業として選ぶ可能性があったというから驚きだ。
また、クリシュナ・バンジという本名を、ベン・キングズレーとした理由は「オーディションを受けた際に、ディレクターから『君を気に入ったが、どのようにキャスティングしていいか正直わからない』と言われたんだ。僕にはシェイクスピアの古典作品を、外国の名前を所有する俳優が演じることに、抵抗があるんだとわかったんだ。そして、その場にいた父親が、『それは簡単だ! 名前を変えればいいだけだよ!』と言ってくれたんだ」。ちなみに、ベン・キングズレーという俳優名は身内から授かった名前らしい。
『ガンジー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞してから、演技に対するアプローチは日本画の筆遣いのようにシンプルで、的確にするようになったと答えたベン。『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』ではサシャの破天荒ぶりと共に、ベンの悪役ぶりも楽しんでほしい。(取材・文・細木信宏 / Nobuhiro Hosoki)
映画『ディクテーター 身元不明でニューヨーク』は9月7日よりTOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国順次公開