フランスの俊英オリヴィエ・アサイヤス、70年代に政治や芸術にまい進したフランスの青年を描く
映画『カルロス』や『夏時間の庭』などで知られるフランスの俊英オリヴィエ・アサイヤス監督が、新作『Something In The Air(英題) / 5月の後』について、主演のクレモン・メテイエと共に語った。
同作は、1968年パリの近郊で起きた五月革命の最中、高校生のジル(クレモン・メテイエ)は、デモの集会に参加したり、新聞を配ったりしていたが、ある日デモ活動によって仲間一人が訴えられたことから、イタリアへ逃亡することになる。そして70年代に入り、彼はそこで芸術や恋に目覚めていくというドラマ作品。監督は、映画『イルマ・ヴェップ』のオリヴィエ・アサイヤスがメガホンを取っている。今作は、ベネチア国際映画祭で脚本賞を受賞している。
60年代後半~70年代初期にかけてティーンエージャーだったオリヴィエ監督にとって、どの程度自身の体験が含まれているのか。「映画内で起きている出来事のほとんどは、実際に起きた出来事や事件をルーツにして描いている。でも、僕は自叙伝や自身をつづったエッセイなどは信じるが、自伝映画を信じないんだ。それは、映画になると自身が体験した感情やイマジネーションを、俳優を通して伝達する必要があるからだ」と答えた。
今作が、映画初出演となるクレモン・メテイエは「映画初出演で主役ができたのは、全くの偶然にすぎない。実は、あるスカウトの女性にアプローチをかけられ、オリヴィエ・アサイヤス監督作品に出演する俳優をキャスティングしていると言われたんだ」と出演経緯を語り、さらに映画内で描かれる世代について「僕は常に70年代のイデオロギーや音楽、そして衣服などに興味を持っていたんだ。それに、父親が当時体験したことをいろいろ僕に話してくれたこともあった。そのため、ある程度は当時に関しての予備知識みたいなものはあった」と話してくれたクレモンは、当時のことを記した書物も読みながら、脚本に記されている詳細を徐々に理解していったそうだ。
映画内で描かれる60~70年代当時と現在の映画や芸術の比較について「多くの映画は、当時を描こうとすると、あの時代をあざ笑ったり、それとは逆に理想化してしまう傾向があるが、僕はただ当時の複雑な状況を興味深い形で演出してみただけなんだ。僕にとって映画を製作するということは、教訓を与えたり、答えを出したりすることではない。むしろ、観客に質問する気持ちなんだよ。ただ、当時と現在の大きな違いは、おそらく将来に対する信念の違いにあると思う。当時は、まるでユートピアみたいな概念が人々の間にあり、ひと世代(アサイヤス監督の世代)だけでも世界を変えることができると思っていたんだ……」と明かした。
映画は、60~70年代を美化することなく、激動の時代の中で居場所を見つけようとする青年の感覚と、至極の音楽と撮影に引き込まれていく。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)