黒澤明監督が男泣き…貴重なエピソードに映画ファンが耳を澄ます
俳優の仲代達矢が24日、「第13回東京フィルメックス」で開催中の「木下惠介生誕100年祭」トークイベントに出席し、黒澤明監督の映画『七人の侍』にエキストラとして出演した当時の思い出を語った。黒澤作品に数多く出演している仲代だが、初仕事となった同作の撮影ではこっぴどく怒られ「二度と出るか」という思いだったという。
仲代が映画デビュー作『七人の侍』で初めて黒澤監督と出会ったのは19歳。オーディションでエキストラの浪人役をつかんだものの、街道を歩くわずか数秒ほどのシーンの撮影に午前9時から午後3時までかかったそうで、「カツラを付けて刀を差して歩くのは初めてなのに、『ダメだ。武士の歩き方じゃないぞ。俳優座は何を教えているんだ』って怒鳴られて」と懐かしそうに回顧。「それから7人の侍役の方々をみんな待たせて何回も歩かされまして、終わったのが3時。二度と黒澤組の作品には出ないぞと思いました」と黒澤監督との強烈な初仕事の印象を語った。
同イベントではMCを木下監督最後の助監督ともいわれている本木克英が務めており、その口からは木下監督と黒澤監督の交友の様子も語られた。黒澤監督と木下監督はデビューの年が同じということもあり親交も深く、生前の木下監督は、黒澤監督について「あんな勇ましい映画を撮っているのに黒澤君ってうちに来て泣くのよ。あんな女々しい男は珍しい」と話していたとのこと。
黒澤監督が日米合作映画『トラ・トラ・トラ!』を途中降板させられた際には「悔しがって涙を流していた」、映画からテレビに移行する時期には「『自分はずっと映画を書いてきたから、連続ドラマというもの書けない』と苦しみながら泣いていた」などなど、黒澤監督の人柄がわかる貴重なエピソードが明かされ、集まった映画ファンは深く聞き入っていた。
「木下惠介生誕100年祭」は木下惠介監督の生誕100年を記念して行われているもので、12月7日まで東劇にて木下監督作品の中から24本を上映。第13回東京フィルメックス開催期間には、その内の19本が英語字幕付きで上映される(取材・文:中村好伸)
「第13回東京フィルメックス」は有楽町朝日ホール・東劇・TOHOシネマズ 日劇にて12月2日まで開催