西田敏行、自身が演じた遺体安置所世話役と再会 涙で撮影振り返る
俳優の西田敏行が19日、東日本大震災後に岩手県釜石市の遺体安置所で遺体の身元確認や故人の供養に苦闘した人々を描いた映画『遺体 明日への十日間』のプレミア試写会に、君塚良一監督と共に出席した。この日は西田演じる相葉常夫のモデルとなった釜石市の民生委員・千葉淳さんも同席し、西田が千葉さんとの再会に目をうるませる場面もあった。
本作は、石井光太のノンフィクション「遺体 震災、津波の果てに」(新潮社刊)をベースに、君塚監督がドラマ化を試みたもの。役名は架空だが、人物ひとりひとりに実在のモデルがあり、実際の出来事に忠実に構成されている。2008年の『誰も守ってくれない』以来のメガホンとなる君塚監督は「亡くなった方、被災された方に対し、絶対にウソがあってはならないと、肝に命じた」と本作に向けた覚悟を語る。
地震とその後の津波により、すさまじい数の遺体が安置所に運ばれた当時。遺体の身元確認や故人の尊厳を守るために遺体を清めるなど、率先して喪の行為に従事した人がいた。それが西田演じる安置所の世話役のモデルとなった、千葉淳さんだ。西田は「撮影が進むと、演じるという感覚はどんどん消えていった。僕自身があの震災や安置所の状況を追体験しているようだった。千葉さんは何てすごいことをやっていたのかと日に日に思った」と撮影を振り返る。
葬儀関係に従事した経歴から、遺体を扱う経験はあったという千葉さん。しかし本作を観て、劇中の西田の姿に驚いた場面があったといい、「冷たい板の間の安置所で、クツを脱いで作業されていた。わたしもご遺体に対してそうしたいと思いながら接していたが、凍えてできなかった。西田さんがわたしの気持ちをわかってくれて、代わりにああしてくれたのだと思った」と語る。
それを聞いた西田は「遺体を前にしていると思ったら、どうしてもクツを脱がないわけにはいかなかった。脚本にはない部分だったが、監督は僕の気持ちを信じて僕の思いを拾ってくれた。でき上がった画面で、はだしになるシーンが使われているのを観たときは泣きました。君塚監督も僕以外の役者さんも、最後は同じ気持ちで亡くなった方に思いをはせていたんです」と映画への特別な感慨を明かしていた。(取材/岸田智)
映画『遺体 明日への十日間』は2月23日より全国公開