アカデミー賞受賞作『愛、アムール』のミヒャエル・ハネケ監督が語る!カンヌは芸術でハリウッドはビジネス!
第85回アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『愛、アムール』のミヒャエル・ハネケ監督が、アカデミー賞受賞の感想や本作のテーマについて語った。長年連れ添った老夫婦が、妻が病に倒れたことでさまざまな試練を体験するさまを描く『愛、アムール』は、第65回カンヌ映画祭でも最高賞にあたるパルムドールを受賞している。
オスカー受賞についてハネケ監督は「このような名誉ある賞を頂けて、やはりうれしいです」と感想を述べた。しかし、授賞式後の晩さん会は「残念ながらうるさく混雑していたので、オスカー像に名前を刻んでもらった後は、誰とも話さず15分で会場を出ました」とのこと。また、カンヌ映画祭とアカデミー賞の違いについては「カンヌは芸術の祭典、ハリウッドはビジネス」と冷静に分析しているようだ。
本作で老夫婦を演じるのは、フランスで有名な俳優ジャン=ルイ・トランティニャンと『ヒロシマモナムール』(1959)のエマニュエル・リヴァ。エマニュエルは受賞こそ逃したものの、この役でアカデミー賞主演女優賞に最高齢でノミネートされていた。ハネケ監督は「全てを表現してしまう役者もいるが、良い役者は、控えめな演技をしてもその奥にあるものが伝わってくる」と語り、それができるのは「偉大な役者だけ」と二人を絶賛した。
また、二人が「脚本のせりふのニュアンスを数倍膨らませてくれた」とも。それを象徴するのが、窓辺で車椅子のそばに座り込んでいる妻が、夫にリビングルームへ連れていってと頼むシーンだ。「そのとき、ジャン=ルイの『ウィ』と答える一言が素晴らしかった。たった一言でその場の悲しみの空気を全て伝えることができた」とハネケ監督。しかし、それをジャン=ルイに伝えたところ「一番気に入ったシーンがたった一言のせりふだったのか、とがっかりしていました」と笑いながら明かした。
最後に、ハネケ監督は本作のテーマについて「全ての人がいずれ体験する、避けては通れないもの。だから誰もが考える必要がある。しかし、これは病気や死の映画ではなく、愛を描いた作品。悲しみもあるが、落ち込む映画ではないので、怖がらずに観ていただきたい。観た後は、満たされた気分になり、癒やされることと思います」と温かい口調で語った。(取材・文:こはたあつこ)
映画『愛、アムール』は3月9日よりBunkamura ル・シネマほかにて全国公開