ダニー・ボイルが明かす彼の作品の音楽と、『トレインスポッティング』のエンディング曲の選考は?
映画『トレインスポッティング』で世界的な注目を浴び、映画『スラムドッグ$ミリオネア』ではアカデミー賞を受賞したダニー・ボイル監督が、これまで製作してきた作品と音楽の関連性について語った。
-ダニー・ボイル監督の初期の作品は、まるでMTVのPVのようだと批判されていた。
「特に最初の2作品は、ポップ系のビデオを編集したものだと批判されていた。けれど、そんな批判を僕は誇りに思っていたよ。当時、MTVはあらゆる意味で全盛期で、僕自身もミュージックは我々の人生に付随しているものだと思っていたから、いろいろな楽曲を映画に含めて何が悪い?と思っていた。だから、初期の作品には興味深い楽曲が多く含まれていた。それらの音楽は、それぞれの人々がその曲を聴きながら様々な体験をしてきているため、曲が我々の人生を振り返らせてくれるんだ」
-『シャロウ・グレイヴ』
「映画のためにサウンドトラックを探したり、どんな曲が良いか当てはめようとすると、なぜか同じもののように聞こえてしまい、それが近年の映画を観ていると多い気がする。だが特別な曲は、突如自分のもとに舞い降りてくるものだ。この『シャロウ・グレイヴ』では、エンディングの曲が決まっていなくて、ある時撮影中のグラスゴーでタクシーに乗っていた際に、ドライバーがラジオでアンディ・ウィリアムスの“ハッピー・ハート”を聴いていたんだ。僕の父親も彼の曲をよく聴いていた。そのとき、(まだ撮影中だったのにもかかわらず)その曲がエンディングの曲だと思ったよ」
-『ビーチ』
「この映画の音楽を担当したアンジェロ・バダラメンティは素晴らしい作曲家だ。映画の映像を送れなかったが、それでも彼は旅行者がビーチを訪れる重要なシーンのために素敵な曲を作ってくれた。だが、僕は最終的にその曲を使うことができなかった。結局、モービーの『ポルセリン』を使用したんだ。振り返ってみると当時の僕は、まだ人に完全に任せることができなかっただけなんだ。作曲家は信じなければいけない。そのことを学んだことで、その後ジョン・マーフィ、A.R. ラフマーンなどの素晴らしい作曲家に作品を委ねることができた」
-『トレインスポッティング』、『スラムドッグ$ミリオネア』、『127時間』
「これらの映画に共通しているのは、大概主人公がとてつもない逆境に立たされて、その逆境を乗り越えていく点だ。そんな映画の場合、通常の曲ならピンの音が落ちる音さえ聞こえるほどの静かな曲が多いが、僕らがこれらの映画で使用した曲は、最後に観客を心地よく劇場から送り出すような、曲が心臓の鼓動にこだましてくるものばかりなんだ。僕はそんな映画音楽が大好きだ。だから、ある意味映画の主人公と共に観客の気持ちを引き上げている」
最後に、『トレインスポッティング』のエンディングで使用されたアンダーワールドの“ボーン・スリッピー”は、もともとアンダーワールドのアルバム「dubnobasswithmyheadman」の数曲を映画で使用する予定だったが、あるとき彼らの曲をロンドンのHMVのストアで物色していたときに、この“ボーン・スリッピー”という曲は知らないと思って買ったことが、あの伝説的なエンディングにつながっていったそうだ。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)