『リンカーン』のダニエル・デイ=ルイスを3度目のオスカーに導いた一流スタッフたちのこだわり
ダニエル・デイ=ルイスが、映画『リンカーン』で史上初となる3度目のアカデミー賞主演男優賞を獲得した陰には、一流のスタッフたちによる職人的なこだわりがあったことが、今回公開された特別映像の中で明らかになった。
本作のメガホンを取ったスティーヴン・スピルバーグ監督は特別映像の中で、「19世紀の世界を映画で忠実に再現したかった」と狙いを語る。その言葉を裏付けるように、プロダクションデザイナーのリック・カーターが「執務室の壁紙を当時の手法で忠実に再現した」と証言。さらにサウンド・デザイナーのベン・バートも「ケンタッキー歴史協会が所蔵している、本物のリンカーンの懐中時計の音を録音した」と述懐するなど、その職人的なこだわりが次々と明かされている。
今回、リンカーンという人物の知られざる感動の人生をしっかりと伝えるためにスタッフたちが心掛けたのは、「シンプル」であり続けることだった。「本作での映像の役割はあくまでも演技や言葉を記録することだった」(撮影監督のヤヌス・カミンスキー)、「せわしない場面転換は避けて、人が見つめ合う間を大事にしたかった。リンカーンが話すときは彼の顔を映し、相手が話すときは相手の顔を映す。話の内容を考えながらゆっくりと観てほしかった」(編集のマイケル・カーン)というコメントからもそれはよくわかる。
そんな一流スタッフたちが用意した最高のステージに、リンカーンを演じたダニエルは最高のパフォーマンスで応えた。今回の役を務めるにあたり、彼は徹底的なリサーチを行い、リンカーンを研究したといわれている。しかし彼自身は「むしろリンカーンに招き入れられた感じだ。それほど気さくな人柄で、うれしい驚きを覚えた」と振り返る。結果、その演技が彼にアカデミー賞主演男優賞をもたらした。彼の俳優としての資質が評価されたことは間違いのない事実だが、それと同時に、彼の演技を的確に伝えることに尽力したスタッフたちの努力にも注目したいところだ。(取材・文:壬生智裕)
映画『リンカーン』は全国公開中