アカデミー賞を受賞したスサンネ・ビア監督が明かす熟年層の恋愛とは?
映画『未来を生きる君たちへ』で、アカデミー賞外国語映画賞を受賞したスサンネ・ビア監督が、新作『愛さえあれば』について語った。
同作は、デンマークで暮らすイギリス人フィリップ(ピアース・ブロスナン)は、愛妻の事故死から立ち直れずに、仕事一筋の孤独な毎日を送っていた。だがある日、息子の結婚式に向かう際に、乳がんを患い、夫に浮気された美容師のイーダ(トリーヌ・ディルホム)と空港で出会う。偶然にもイーダは、フィリップの息子の結婚相手の母親だったことから、彼女の内面に徐々に惹(ひ)かれていくという熟年のラブストーリーを描いたロマンチック・コメディー作品。
がんを患う女性を描くことについて「今日、多くの人々の身内にがんを患う人がいる。がんは身近な病気で、わたしの母親も2度も乳がんの手術を受けたことがあったわ」と答え、「ただ、確かにがんを患った女性を描く点では、パーソナルな映画に聞こえるけれど、わたしがこれまで描いてきた映画も、この映画と変わらずパーソナルな映画だと思っている。それでも、今作はこれまでのわたしの映画と違って、もう少し軽めのコメディータッチで描かれているわ。それは、がん患者を描くこと自体がシリアスであるため、映画内で起きる出来事は意図的に軽めのコメディートーンで描いたの」と語ったとおり、映画内ではがんを患っても前向きに強く生きる女性が描かれている。
ピアース・ブロスナンとトリーヌ・ディルホムの配役について「脚本家アナス・トマス・イェンセンとの会話では、主役の二人はまるでスペンサー・トレイシーやキャサリン・ヘプバーンのような関係にしたいと話し合ったけれど、そのようなカップルをキャストすることはすぐに無理だと思った。でも主役(トリーヌ)は乳がんを患い、夫に浮気されたため、誰がこんな女性を救ってくれるかと考えたときに、ジェームズ・ボンドを演じたピアース・ブロスナンの名前が浮かんだの(笑)」とピアースは理想のキャストだったが、実際の彼は「ピアースは(妻を実際に失った経験から)心の奥底に秘めた感情をもってこの役を演じてくれたの。一方トリーヌは、これまでタッグを組み、英語を話せるデンマーク出身の女優としてキャストしたわ」と明かした。トリーヌにとっても本作が初めてのコメディー作品だそうだ。
熟年層を主人公に描いた映画について「まず最初に、もしロマンチック・コメディーを描くとしても、素晴らしい仕事に就き、素晴らしいアパートに住むような20代のハンサムと美人のカップルを描く気にはならなかった。そのような映画は、個人的に鑑賞し難い映画だとも思っている。だからロマンチック・コメディーを描くなら、素晴らしい恋にふさわしいカップルを描きたいと思ったの。特にこの熟年層を描きたかったわけではないけれど、(主役が)がんや苦痛な体験を過去に味わった経験から、自然な流れで熟年世代になっていたわ」と答えた。
映画は、どんな環境や状況下にあっても、恋ほど素晴らしいものはないと感じさせてくれるあらゆる世代に適した映画に仕上がっている。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)