仲代達矢『七人の侍』で味わった屈辱感から黒澤監督のオファーを断り続けた日々を明かす
日本映画界を代表する名優仲代達矢が、ニューヨークの映像博物館で行われた映画『乱』の特別試写に登壇し、過去についても振り返った。
まず、『七人の侍』について「俳優座養成所の2年の時『七人の侍』に2秒(通りすがりの侍として)出たんです。撮影開始は朝9時で、午後3時まで歩かされました。19歳で初めてちょんまげを付け、着物を着て刀を差したんです。経験がなかったから、やっとOKが出たのが午後3時でした」と苦い思い出を明かした。
だが、『用心棒』で再び黒澤明監督と組む。「『七人の侍』で約半日も屈辱感を味わったので、僕はそのとき、これから良い俳優になって、絶対黒澤組には出ないぞ!と決めたんです(笑)。それから7年後、『用心棒』の依頼がきたのですが、最初はずっと断っていました。でも黒澤監督の根気に負け仕方なく出ました(笑)」。
『乱』で引火された城から出てくるシーンは「本作は(日本側の概算は11億円)海外も含めると約30億円近い予算で、そのうち4億円で城を建て、7億円が衣装、あとは馬代に使ったと聞いています。僕は城内に入り、燃えるのを待ち、8台のカメラを一斉に回して、城から荒野に僕が消えて行くまでをワンカットで撮影しました。黒澤さんには事前に『絶対に転ぶなよ!ひと転び4億円だぞ!』と言われたんです」と語る彼は見事にこのシーンを演じたが、その際やけどし、1週間も休んだそうだ。
『乱』のテーマは「シェイクスピアの『リア王』を基に、毛利元就の“三本の矢”の逸話も含まれていますが、もしその三本の矢が折れたらというところから発想しています。『影武者』でカンヌ国際映画祭に向かう飛行機内で黒澤監督は、『人類が存在する限り、憎しみは変わらない、仕返しも変わらない、戦争も終わらない』と本作を製作する前に話してくれました。『乱』を再び鑑賞し、彼はそのような思いで作ったのかと思い起こしていました」と感慨深げに語った。
最後に彼は自分を見いだしてくれたのは小林正樹監督で、自分の出演作品で一番好きなのは『切腹』と明かした。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)