ボクシンググローブで芸術を手掛ける!アメリカで活躍する異色の日本人画家とその妻の物語とは?
今年のサンダンス映画祭で話題になったアメリカで活躍する日本人画家の篠原有司男さんと、妻の乃り子さんを描いたドキュメンタリー映画『キューティー&ボクサー』について、篠原夫妻が語った。本作では、これが自身初の長編映画となるザッカリー・ハインザーリング監督が、二人の波瀾(はらん)万丈な半生を彼らの友人やこれまでの活動を通して映し出す。
ボクシンググローブで真っ白なキャンバスにパンチを繰り出して描くというユニークなスタイルについて、有司男さんは「1950年代後半に絵の具をぶつけたりするアクションペインティングというものが世界的に流行していた。そんな中で僕はより速く、美しく、リズミカルに目をつぶって右から左にぶっ飛ばして、アートはこれだということを示したかった。バランスとか、色のニュアンスとか、そういうものを拒否してアートを作りたかったんだ」と明かした。
有司男さんはどのようなアーティストに影響を受けてきたのだろうか。「岡本太郎だね。彼は絵画、彫刻、パフォーマンス、あらゆる芸術に関わっているからだ。文学で好きなのは樋口一葉で、彼女の『たけくらべ』をニューヨークの地下鉄の中でよく読んでいるよ。明治の文学をニューヨークで読むと、自分のアイデンティティーがはっきりわかってくる」と彼は答える。日本の“わび・さび”が嫌でアメリカに飛び出したという彼だが、今では日本の良さを見つめ直すようになったそうだ。
一方、乃り子さんは出会った当時の有司男さんについて、「わたしには彼が純粋なアーティストに見えました。なぜなら当時の彼は台所もないような場所に住んでいて、本当に仕事だけだったんです。それにしゃべることといえば自分を表現することだけで、わたしが聞いた質問と違うことを答えたりして……。本当のアーティストという感じがしました(笑)」と振り返っていた。
最後に「僕にとって、本当のアーティストに成功と不成功という言葉はない」と芸術のスタイルを崩してきた彼らしい言葉を残した有司男さん。その精神は本作にも十分に反映されている。(取材・文・細木信宏 / Nobuhiro Hosoki)
映画『キューティー&ボクサー』は12月、シネマライズほか全国公開