名監督ダニー・ボイルにも残念な過去
催眠療法で主人公の心の奥に分け入るうちに予想もしなかった事実が明らかになるサスペンス映画『トランス』でメガホンを取ったダニー・ボイル監督と主演のジェームズ・マカヴォイの心の奥に迫った。本作は、名画を奪うも頭を打って隠し場所を忘れてしまう競売人(ジェームズ)、その絵を手に入れようとするギャングのボス(ヴァンサン・カッセル)、隠し場所を探り当てるために雇われた催眠療法士(ロザリオ・ドーソン)の3人が織り成す物語だ。
本作にちなんで、もし催眠療法を受けたとしたらどんな秘密が出てくると思うか尋ねると、二人は対照的な反応を見せた。ジェームズが「オウッ、ワァオ!」と叫んで背もたれにのけ反るようにして天井をにらみ、しばし黙考に入ってしまった一方で、ボイル監督は一瞬伏せた目をパッと上げると「僕のは見当がつくな。女性にもっとモテたかったというのが出てくるんじゃないかな」と即答。
「心の深い深いところにはそれがあると思う」と続けたボイル監督は、催眠療法についても「きっと『こうじゃなきゃ良かったのに』というのが出てくるものだと思うよ。催眠療法では心地よくなかったこと、変えたかったことが出ると思う」と分析してみせた。
ボイル監督に「僕の世代では共通の思いかもしれないね。君はその方面で心地よくなかったなんてことはないだろう?」と水を向けられると、「うーん、どうかな」とはぐらかしたジェームズ。「僕は、“恥の感覚”が出てくると思う。どこから来ているものかわからないけど、そういうのがある。いつも、それと共にあるんだ。催眠療法を知ったことで最近、自分のことを考えるようになって気が付いたんだけどね」と抽象的ながら、人目にさらされる職業故かと思われる答えを口にしていた。
映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2008)でアカデミー賞監督賞を獲得、そして2012年ロンドンオリンピック開会式の芸術監督としても辣腕(らつわん)を振るい、名匠と呼ばれるに十分な活躍を見せるボイル監督にも残念な若き日が、そして甘いマスクで女性には不自由しなかったに違いないジェームズにも心地よくない思いがあるということを聞くと、何だか安心させられる。(取材・文:山口ゆかり / Yukari Yamaguchi)
映画『トランス』は公開中