宮崎駿が作品に込めた思い…子どもたちに発し続けたメッセージ
先日、突然の引退発表で日本のみならず世界中を驚かせた宮崎駿監督。子どもから大人まで幅広い世代に愛され続けた宮崎監督だが、これまで作品にどのような思いを込めてきたのだろうか。
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宮崎監督は先の見えないこの時代に生まれてきた子どもたちに「おもしろいものは、この世界にいっぱいある」(※1)ということを伝えたいと、一貫して子どものために映画を作ることに努めてきたということ。実際に息子が3歳のときは3歳の子どものため、小学生のときは小学生のための映画を作ろうと思っていたというが、息子たちが大きくなってからは対象を変え、『千と千尋の神隠し』では友人の娘のために作ったことを明かしている。
また、宮崎監督にとってアニメーションを作る上での土台は「なんのために生きていこうとするのかわからないままさまよっている人たちに、元気でやっていけよ、とメッセージを送ること」(※2)だという。監督最後の長編映画となった『風立ちぬ』で、「生きねば。」というキャッチコピーが使われたことも話題になったが、他にも『もののけ姫』では「生きろ。」、『崖の上のポニョ』では「生まれてきてよかった。」と、多くの作品に「生」のメッセージが託されていることからもその思いは伝わってくる。
中でも、子どもたちが「どうして生きなきゃいけないんだ」という疑問を持っていると感じ、それに対し自分はどう考えているのか答えなければならないと思ったことから製作したというのが『もののけ姫』。中世・室町期の日本を舞台に、森を切り開こうとする人間たちとその森を守ろうとする山犬一族との壮絶な争いを描いた同作の企画書でも、監督は「憎悪や殺戮のさ中にあっても、生きるにあたいする事はある。素晴らしい出会いや美しいものは存在し得る」(※3)と生きることの意味をつづっている。
『風立ちぬ』では、不景気、政治不信、大震災など現代と酷似する1920~30年代に生きる主人公・二郎に向かって、イタリア人飛行機製作者のカプローニが「力を尽くして生きなさい」と言うセリフが出てくるが、どんな時代や状況にあっても精いっぱい生きることの大切さや、生きることの喜びを改めて教えてくれるのもまた宮崎作品の魅力。まだ続けてほしいという思いもあるが、それよりも今は「お疲れさま」と「ありがとう」の言葉を贈りたい。(編集部・中山雄一朗)
※1、※3 宮崎駿「折り返し点 1997~2008」(2008年 岩波書店刊)
※2 宮崎駿「出発点 [1979~1996]」(1996年 徳間書店刊)