石巻を舞台に元ヤン女とデブ少年の交流を描く短編 監督が被災した故郷への思いを明かす
石巻市出身の新鋭・庄司輝秋監督が故郷を舞台に描いた劇映画デビュー作『んで、全部、海さ流した。』の公開記念イベントが25日、渋谷のユーロスペースで行われ、文化庁映画賞大賞を受賞した『先祖になる』の池谷薫監督と、庄司監督が語り合った。
若手映画作家の発掘と育成を目的に、2006年から始まった文化庁委託事業「若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)」で製作された本作。ndjc作品としては初めて単独での劇場公開が決定。30分の短編ということで、前売り料金500円(当日料金700円)で鑑賞可能となっている。本作を配給するシグロの山上徹二郎プロデューサーは「この映画は短編だけど、長編でやろうと思えばできる物語性、長編の息づかいがある。だからこそ30分単品で劇場公開してみようと思った」と配給に至った経緯を語る。
本作の主人公は、韓英恵ふんする元ヤンキーの弘恵。うそばかりついて鼻つまみ者の彼女は、あるとき、赤いランドセルを背負うデブな少年と出会う。そして、そのランドセルが交通事故で亡くなった妹のものであると知った弘恵は「長浜の海で形見を燃やせば命がよみがえる」とうそをついてしまう……。35ミリフィルムで撮影された本作は、撮影の釘宮慎治、録音の小川武、美術の磯見俊裕など、一流の映画スタッフたちも参加する。
「被災地と呼ばれている場所で生きている人間を描きたいと思った」と庄司監督が語る通り、直接的に震災を描写した物語とは一線を画す。「映画を撮る前は、地元が被災したことで自分の思い出が、泥やガレキに結びついてしまい、思い出すのも嫌だった。でも映画を撮り終わってみると、記憶が新しくなったというか、(故郷に)向き合うことができるようになった」という。
作品を鑑賞した池谷監督は「庄司輝秋はワンカットずつ、いろいろなことを考えながら撮ったんだろうなというのが非常によく伝わった。(現在は東京に住んでいるため、震災のときに)石巻にいなかったという思いを感じる。だからこそ彼は石巻で撮らなければならなかったんだろうし、それがこの映画の魅力になっていると思う」と本作に魅了された様子であった。(取材・文:壬生智裕)
映画『んで、全部、海さ流した。』は11月2日より渋谷・ユーロスペースにて公開