コーエン兄弟が描いた売れないフォークミュージシャンを描いた映画とは?
数々の秀作を手掛けてきたジョエル&イーサン・コーエン兄弟が、新作『インサイド・ルーウィン・デイヴィス(原題) / Inside Llewyn Davis』について語った。
本作は、1961年のニューヨークのグリニッチビレッジを舞台に、住所不定の売れないフォークミュージシャンのルウェイン・デイヴィス(オスカー・アイザック)が、さまざまな困難に直面する1週間を描いている。コーエン兄弟は、デイヴ・ヴァン・ロンクの回想録「ザ・メイヤー・オブ・マクドゥーガル・ストリート(原題) / The Mayor of MacDougal Street」を基に脚色した。
今作をフィルムで撮影した理由についてジョエルは「まず、映像の質を芸術的なものにしたかった。さらに、今作の撮影監督ブリュノ・デルボネルとは『パリ、ジュテーム』の短編でタッグを組んだが、彼も僕らもその時はまだデジタルでの撮影をしたことがなかった。その後僕らはデジタルで作品を手掛けたが、ブリュノとは長編でタッグを組んでいなかったのでフィルムに決めた。個人的には映画『オー・ブラザー!』以来、映像にこだわった作品になった」と自信をのぞかせた。
キャストについて「ジョン・グッドマン以外の俳優は、オーディションで決めた。その中で、ルウェイン役が最も難しく、ミュージシャンとして数曲演奏しながら歌い、さらに主役として最後までもつことができる俳優でなければならず、そんな俳優は居ないとも思っていた。確かに楽器を演奏できる俳優は居るが、レパートリー方式の演奏が熟練した技術でできるのはオスカー・アイザックしか居なかった」とジョエルが語る通り、オスカーのパフォーマンスは、まさにプロのミュージシャンのようだ。
映画は典型的な3幕構成(発端・中盤・結末)を取らず、フォークソングのように思えた。「今作では冒頭シーンで描かれたことが、最後のシーンでもリピートされ、その過程がゆっくりつづられているため、激しい抑揚がなく、確かにフォークソングのようかもしれない」とジョエルが同意した。また、クリエイティブ面の争いについては「僕らはこれまで長編作全て共同で仕事し、何か問題が撮影中に生じても、お互いがアイデアを出し、その中で良いものを選択するため、あえて意見を出して対立することもない。ある意味、日本的なやり方だね」とイーサンが語った。
映画は、60年代前半の時代背景の中で、フォークミュージシャンとして人生を模索する若者が興味深く描かれている。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)