松山ケンイチ主演作、福島で農業を行うシーンへのこだわり
松山ケンイチ主演の映画『家路』のメガホンを取った久保田直監督と脚本家の青木研次が1日、池袋コミュニティ・カレッジで行われたトークイベントに来場し、農業シーンへのこだわりを明かした。
震災後の福島を舞台に、故郷を失った家族が再生に向かう姿を描いた本作は、福島県の富岡町、川内村など被災地での撮影を敢行。富岡町は震災直後には全域が警戒区域(福島第一原子力発電所から20キロ圏内)に指定されており、震災後に本格的な映画の撮影が行われるのは初めてだったという。久保田監督も「福島を舞台にした映画を作るからには、そこはこだわりたかった。リアリティーを追求したいという思いとは別に、そうしなきゃいけない思いがあった」と振り返る。
松山ふんする次郎は、かつて自分が捨てた故郷が警戒区域に指定され、無人化していることを知り、帰郷を決意。自給自足で生きるべく、愛情をもって故郷の田圃に苗を植える姿が描かれる。「人間が暮らせない状態でありながらも、緑は本当にきれいだし、川はキラキラと輝いている。そういう状況の中で米がすくすく育つさまを見せるのはこの映画の大きな要素。頑張ってきれいに撮ろうと心掛けた」と振り返る通り、この「農業」のシーンは久保田監督がこだわった点だという。
本作の農業指導を行った地元民の秋元美誉氏を「土や田んぼに愛情を注いでいる方」と評する久保田監督。松山が種もみを選別するシーンの撮影では「もっと優しくやってもらいたいんだよね」とアドバイスを受けたこともあったそうで、「ケンイチもすぐにピンときて、『愛情が足りませんでした』と。お米ってこんなにもいろんな思いを込めて作られているんだということを、ケンイチも(田中)裕子さんも実感したので、その結果がにじみ出ていると思う」と自負していた。これには青木も「松山さんは素晴らしかった。彼の演技を観るだけでも価値がある。天才ですね」と称賛する。
本作のメガホンを取った久保田監督は、ギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞した「NHKスペシャル『家族の肖像』」など、家族をテーマとした多くのドキュメンタリーを制作してきた人物。ドキュメンタリストならではの視点で、人間の心の底にある感情を丁寧にすくいあげた本作は、第64回ベルリン国際映画祭への正式出品も決定している。(取材・文:壬生智裕)
映画『家路』は3月1日より新宿ピカデリーほかにて全国公開