綾野剛、大胆なラブシーンに本気で挑んだ理由
主演最新作『そこのみにて光輝く』で理屈じゃない男の愛を見せた綾野剛が、売春で貧しい家族の暮らしを支えるヒロインの千夏役、池脇千鶴と本気でぶつかり合ったラブシーンについて振り返った。
綾野剛が大胆に挑んだ映画『そこのみにて光輝く』フォトギャラリー
熊切和嘉監督がメガホンを撮った『海炭市叙景』、そしてその足跡を追うドキュメンタリー『書くことの重さ 作家 佐藤泰志』で注目を浴びる不遇の作家、佐藤泰志唯一の長編小説を映画化した『そこのみにて光輝く』。綾野演じる主人公は、作家自身を多分に投影したとおぼしき、他人との関わりを避けて生きながらも愛を求めてさまよう達夫だ。
人間の「生」に加え、男女の「性」を扱うディープなラブストーリーだけに、『オカンの嫁入り』で新藤兼人賞の金賞を獲得した呉美保監督の、ベッドシーンに対するこだわりも相当なもの。「男と女が結ばれていく過程をちゃんと見せて、観客に恋愛を疑似体験させたい」との監督の期待に綾野と池脇がしっかり応え、濃密かつおごそかな男女の営みが展開されている。
ロケ地の函館で毎晩のように酒を飲み、達夫として生きた綾野にとっても肝となる場面は、あえぎ声過剰なベッドシーンとは一線を画した、綾野いわく「聖域みたいな性的描写」。惹(ひ)かれ合い互いの全てを求め合う達夫と千夏が、時間をかけて「昆虫の交尾みたいに静かに粛々と愛を育んでいく」姿を表現したかったのだと明かす。
自身初となる本格ラブストーリーに挑んだ呉監督、「ここまで演じるのは初めて」と語る綾野、そして「中途半端にはしたくない」と『ジョゼと虎と魚たち』以来の体当たり演技を披露する池脇の熱い思いが結実した、生々しくも神聖なラブシーン。不自然な露出制限とも露悪的なあざとい描写とも無縁な、愛の行為の美しさをまざまざと見せつける。(取材・文:柴田メグミ)
映画『そこのみにて光輝く』は4月19日よりテアトル新宿ほか全国順次公開