ニューヨーク・タイムズ紙の最大の汚点となった記事捏造記者ジェイソン・ブレアを描いた映画とは?
ニューヨーク・タイムズ紙の最大の汚点となった元記者ジェイソン・ブレアの記事捏造(ねつぞう)事件に迫ったドキュメンタリー映画『ア・フラジャイル・トラスト:プレイジャリズム、パワー、アンド・ジェイソン・ブレア・アット・ザ・ニューヨーク・タイムズ(原題) / A Fragile Trust: Plagiarism, Power, and Jayson Blair at the New York Times』について、サマンサ・グラント監督が語った。
同作は、ニューヨーク・タイムズ紙の元記者ジェイソン・ブレアが、同紙のインターンとして仕事を始め、その後常勤記者に昇格して全米担当に配属されたが、2002年10月以降彼が執筆した記事73本のうち、約36本が盗用や捏造であることが発覚し2003年に辞職するまでの過程を、本人インタビューと同紙スタッフの観点から描いたもの。
ジェイソンの出演経緯は「実はジェイソンが援助し、彼自身も患っていた双極性障害のグループを通して、彼のE-mailをインターネットで見つけて連絡したの。当然彼は返信をくれず、その後わたしは1週間おきに、今作の概要を8週間送り続けたけれど、その間も無視されたわ。その後、彼の所在地がわかり、カフェで待ち合わせして朝9時から夕方5時まで待ったけれど、その時も彼は警戒して来なかった。ただ、その熱意が後に彼に伝わり、ようやく1年後に3度の取材に応じてくれた」と根気強くアプローチしたことを明かした。
ジェイソンがインターンから全米担当記者になるまで、わずか4年しかたっていない。「彼のように昇格するケースはまれよ。でもスタッフが批判すれば、彼が黒人ということで人種問題に発展するため、スタッフの誰もが目をつむっていた。でも最も問題となったのは、彼が後にコカインの問題でリハビリを受けていた際に、スタッフは彼がドラッグ常用者と気づいても、法的に会社では何も聞けなかった」と語り、そのドラッグ常用者の放置が記事捏造につながっていく。
米同時多発テロ後の影響はあるのか。「9.11の数日前にハウエル・レインズが同紙の編集長に就き、翌年は同紙の歴史上で最もピューリッツアー賞を獲得した年になった。そしてハウエルは記者に、より厳しい要求をし、同紙に魂や心情を捧げてきた記者から怒りを買ったの。そんな時に、このジェイソンの事件が起きた。だから、この同時多発テロの影響は大きいはずなの」と答えた。
映画は、デジタル時代のメディアがどのようにこの事件に影響をもたらし、いかに人々の間でジャーナリズムの価値観が変化したかを描いている。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)