ジブリ新作は「人の手を借りる」!実写映画の美術監督&宮崎駿に「NO」を突き付けた作画監督を招へい
高畑勲・宮崎駿の両巨匠が一切関わっていないスタジオジブリ初の長編アニメーション映画である『思い出のマーニー』。本作の監督を務めるのは、宮崎駿の下で学んだジブリ生え抜きのアニメーターで、映画『借りぐらしのアリエッティ』で監督デビューを果たした米林宏昌だ。「高畑・宮崎がいなかったらスタジオジブリはこんなものしか作れないのかとは絶対に言わせない」と強く口にしたという米林監督の挑戦について、西村義明プロデューサーが明かした。
「麻呂(注:米林監督の愛称)さんは悩んだんです。なぜかっていうと麻呂さんは全て宮崎駿から教わったので、『自分の中の“宮崎駿なるもの”だけで勝負できるのか』ということを真剣に考えたそうなんです。宮崎さんから教わったことを踏襲しつつも、やっぱり新しいものに挑戦しなくてはいけない。そんな時に、自分の中にあるものだけで勝負できないのだったら『人の手を借りよう』と」(西村プロデューサー)
その「人」というのが、美術監督の種田陽平と作画監督の安藤雅司だ。米林監督第1作『借りぐらしのアリエッティ』の美術設定は脚本を担当した宮崎駿のイメージを基にしたものだが、今回「宮崎ナシでどうするか」という時に、三谷幸喜、岩井俊二など日本人監督のみならず、クエンティン・タランティーノ、チャン・イーモウら海外の監督からも絶大な信頼を得ている美術監督の種田に参加してもらうことにしたという。西村プロデューサーは「種田さんが作る背景美術、そしてその背景のディテールの細かさも含めて、宮崎さんはそこまでいかないと思うんです」と自信をのぞかせている。
一方、作画監督の安藤は『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』での宮崎駿監督の右腕。しかし『千と千尋の神隠し』の時に宮崎監督と仲たがいしてジブリを出ていき、その後は今敏監督(『パプリカ』)や沖浦啓之監督(『ももへの手紙』)と作品を作ってきた人物だ。西村プロデューサーは「宮崎さんの作品にある種『NO』を突き付けた作画監督を呼び戻したんです。かつての宮崎さんの右腕を今、麻呂さんが右腕として使う。ただ、その右腕というのは何も宮崎さんの全てを受け継いだ人ではなくて、宮崎さんじゃないものを持っている人なんです」と説明している。
米林監督は今回、『借りぐらしのアリエッティ』の時とは違って監督を志願し、その際「『アリエッティ』でやり残したことがあるんです。それをぜひともやりたい」と語ったという。『アリエッティ』で費やした時間は脚本1か月(宮崎駿)、絵コンテ4か月(米林監督)だったが、本作では米林監督は脚本にも名を連ね、脚本&絵コンテに20か月かけるという気合の入れようだ。
西村プロデューサーはそんな米林監督の胸の内を「自分が持っている“宮崎なるもの”とそうでないものを組み合わせた時に、宮崎さんを超える作品ができるんじゃないかっていう期待があるんだと思うんです。そこが麻呂さんの挑戦で、面白く思っている部分だろうし、その一方で不安に思っていることだと思うんですね」と察している。作品の完成は6月末の予定。米林監督の挑戦の行方に注目したい。(編集部・市川遥)
映画『思い出のマーニー』は7月19日より全国公開