想田和弘監督と金獅子賞受賞監督、ドキュメンタリー映画へのアプローチ語る
今年14回目を迎え、現在開催中のイタリア映画祭のトークセッションに、昨年、ドキュメンタリー作品としては初めてベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』のジャンフランコ・ロージ監督が登壇。映画『選挙』など、事前の打ち合わせを排した「観察映画」という独自のスタイルでドキュメンタリー作を撮り、高く評価されている想田和弘監督と、「ドキュメンタリーに事前準備は必要か」という両監督の本質に関わるテーマを、熱く語り合った。
トークでは、想田監督がまず「僕にはカメラが回っていないときこそ、おもしろいことが起きてしまうという怖れがあって、つい回してしまう。ロージ監督は、撮り始める前に時間をかけてリサーチするそうですが」と口火を切った。これに対してロージ監督は「わたしは逆に、人物を理解する前にカメラを向けるのが怖いです。画面に、わたしのその人物への理解や気持ちが映ってしまうから。信頼関係を築くためにリサーチするのであって、撮りたい画を撮るためではありません。カメラの前で自然に振舞ってもらいたいんです」と、自らのスタイルを述べる。
「想田監督の作品は全部観ています。ドキュメンタリーといえども、出来事そのものの裏にある真実が、メタファー(暗喩)として示されるのが映画だと思う。あなたの作品にも同じくそれがあると思っています」と、想田作品を語ったロージ監督。想田監督はこれに対して「僕は、出来事に対して常にオープンでいたいから、リサーチを嫌うんだけど、ロージ監督はすべての出来事にオープンでいるためにリサーチしているんですね」と語り、各々方法は異なるが、ドキュメンタリーで目指すべきは、人々のなかにある真実という点で一致したようだった。
ロージ監督の『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』は、ローマを囲む環状の高速道路GRAに沿って暮らしいる人々の、それぞれの物語を叙情的に描いたドキュメンタリー。「単なる人々の生活の困難を告発する映画ではない。複雑な現実を複雑なまま捉えて、観たあとにジワジワ来て、しばらく忘れられない映画です」と想田監督が評すると、ロージ監督は「2年間撮影にのめり込んで、髪も抜けましたし、実際に離婚もしました」といい、会場の笑いを誘っていた。(取材/岸田智)
「イタリア映画祭2014」はこのあと5月3日から5日まで有楽町朝日ホールで、5月10日から11日まで大阪・ABCホールで開催
映画『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』は8月16日より順次公開