映画『グランド・ブダペスト・ホテル』に見るこだわりの映像とは
凝りに凝った映像スタイルを作品ごとに進化させているウェス・アンダーソン監督の集大成ともいえる映画『グランド・プダペスト・ホテル』から、そのこだわりぶりを検証してみた。
物語はもちろんビジュアルも面白い!映画『グランド・ブダペスト・ホテル』フォトギャラリー
どのカットを観ても「一枚の絵画」のように印象に残るのが、ウェス・アンダーソン作品の特徴。前作『ムーンライズ・キングダム』あたりから強調されていた「左右対称の画面」は、今回の『グランド・ブダペスト・ホテル』で過剰なまでに多用されている。ホテルの内観や人物の配置、自然の風景までが、計算され尽くしたシンメトリーになっているのだ。
さらにユニークなのがスクリーンのサイズ。本作には三つの時代が描かれるが、1960年代のパートは横長のワイドスクリーン。物語のメインとなる1930年代は左右の幅が狭まって、当時の映画でよく使われた、横1.37:縦1のコンパクトなフォーマットに変わる。そして現代のパートは、横1.85:縦1という近年の映画に多いサイズにスイッチ。スクリーンの比率で時代のムードを伝える演出が効果的だ。最近では珍しい「1.37」のフォーマットは意外な奥行きも感じられ、ここにシンメトリーが重なって、観る者を不思議なムードに誘い込んでいく。
そしてウェス・アンダーソン作品の魅力といえば、おもちゃのようにカラフルな美術や思わず手に取りたくなるようなアイテムの数々。ホテルのインテリアはもちろん、スーツケースからベルボーイの制服に至るまでクラシックなデザインに高級感を漂わせ、目を楽しませてくれる。中でも劇中のキーアイテムとなるカップケーキは、色とりどりのケーキ自体はもちろん、ピンク色のケーキの箱や配達用のバンのデザインがかわいすぎ! このピンクが本作の「ポイントカラー」として、ときめきのテンションを上げるのも、監督の計算かもしれない。
『グランド・ブダペスト・ホテル』は、ウェス・アンダーソンの他に類を見ない映像センスと美術が織り成すマジックで、日常を忘れ、おもちゃ箱に入った感覚を味わことができる作品になっている。(斉藤博昭)
映画『グランド・ブダペスト・ホテル』は全国公開中