アカデミー賞受賞の『her/世界でひとつの彼女』スパイク・ジョーンズ監督、脚本執筆の極意を明かす
サマンサという名の人工知能型OS(スカーレット・ヨハンソン)と孤独な男セオドア(ホアキン・フェニックス)の恋を描いた映画『her/世界でひとつの彼女』で第86回アカデミー賞脚本賞に輝いた鬼才スパイク・ジョーンズ監督が、魅力的な物語を作るためのプロセスについて語った。近未来のロサンゼルスを舞台にした本作は、ミュージックビデオ出身のジョーンズ監督らしいセンスあふれる映像の数々はもちろんのこと、そこで語られる物語が、鋭い時代性を持ちながらも誰もが共感できる普遍的なラブストーリーである点で称賛されている。
「登場人物の選択によってストーリーを紡ぐことが重要。ストーリーが先にあって登場人物がそれに合わせて行動する、ということではなくてね」と脚本執筆の際に重視したポイントを明かしたジョーンズ監督。「今回はSFチックなアイデアが設定としてあるわけだけど、物語の核にしていたのは『人と人とのつながり』。ファンタジックな世界だからといって、何でもアリみたいな話にしたくはなかったんだ」。そのため、登場人物の選択を理解できるか、感情移入できるか、共感できるか、真実だと感じられるかを何度も何度も自問自答したという。
その作業は一人で机に向かっている間だけでなく、リハーサルに入ってからも続く。「セオドアが『日曜の冒険に行こうよ』とサマンサを誘ってからビーチで過ごすまでのシークエンスがあるじゃない? セオドアは最初気をもんでいるけど、最後には心から笑えてサマンサと一緒にいることを楽しんでいる。だけどこの彼の心情の変化が最初の脚本ではうまく書けていなかった。ホアキンは自分が信じられないセリフは言えないタイプだから、彼が口にできないセリフがあると『あー僕はズルをしてストーリーにセオドアを従わせていたのか』と気付かされるんだ。ホアキンの存在はすごく大きかった。一緒に話し合いながら作っていって、最終的に自然な心情の変化に行き着いたんだよ」。
さらに、本番の撮影をしている時も、編集している時も、俳優陣や編集技師と共に「僕たちはこれを信じることができる?」という問い掛けを繰り返し、最終的に真実味にあふれた物語を完成させたとのこと。ジョーンズ監督は、脚本の第1稿と完成した映画の内容はだいぶ違っているものなのか? との問いに「映画作りはコンスタントなプロセスなんだ。たぶん画家みたいな感じだよね。1日目に画家がキャンバスに乗せたもの、それが最終的な作品のエッセンスかもしれないけど、ほかの色彩やディテールを重ね、そのたびに新たな発見をしながら作品を作っていくわけだから」とほほ笑んでいた。(編集部・市川遥)
映画『her/世界でひとつの彼女』は6月28日より新宿ピカデリーほかにて全国公開