河瀬直美監督と松田美由紀、カンヌでの涙に隠された過酷な撮影を振り返る!
第67回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品された映画『2つ目の窓』の河瀬直美監督と、本作でヒロインの母を熱演した松田美由紀が撮影を振り返った。
カンヌでの公式上映後、場内がやむことのない大きな拍手に包まれると河瀬監督、ヒロインを務めた吉永淳、松田、そして渡辺真起子ら女優たちの目には大粒の涙があふれていた。「何べん思い出しても、本当に幸せでいっぱいなときでした。俳優をやっていてこんなに幸せなときはありませんでした」とその瞬間を振り返った松田は、「この映画で、この役でカンヌに行けて本当によかった」とかみ締めるように語り、河瀬監督は「皆さんと一緒にあの拍手を受けられたことがとてもうれしかった」とキャストへの感謝を述べた。
初の河瀬監督作品への出演となった松田は、ほかの監督との現場の違いに衝撃を受けたという。「まず撮影が始まる前から奄美で生活をしたんです。わたしは吉永淳ちゃんの母親役だったので、淳ちゃんと一緒に生活をしてご飯も一緒に食べていました。末期ガンを患っている設定で、役づくりで病院にも4日間入院したんですよ」と話す松田に、河瀬監督は「何も言わずに、奄美にさえ来ていただければ大丈夫って思っていたんです」とニヤリ。撮影中は「ミッション」と呼ばれるさまざまな課題が監督から課せられたという。
初めての撮影スタイルに対して「ひたすらジタバタしていました(笑)」という松田は、「わたしはこういう撮り方をしますという説明があるわけでもなく、突然放り出される感じだからすごく戸惑いました(笑)。監督、その説明がないのって何でなんですか?」と自ら質問。河瀬監督は「説明すると、説明しただけまた枠ができると思うんですよね。例えば、4日間入院してくださいってお願いをするときに、入院したらきっと末期を宣告されている人間の気持ちが少しでもわかるようになりますって説明すると、そこだけしかなくなってしまうんです」と演出のこだわりを語った。
「安心のもと、役づくりのためにやっているというふうに思われることも嫌なんです。だからとにかくそこに行ってくださいと、そして感じてくださいとしか言えない」と話す河瀬監督の撮影方法は役者にとって過酷そのものだが、それでも松田は「大きなものを学ぶことができた」と話す。カンヌで流した大粒の涙の裏には、役と個人との境がなくなるほど過酷な環境を乗り越えた思いがあった。賞は取れなかったものの、一つの作品に全身全霊を懸けた河瀬監督と、彼女を信じた役者、スタッフの情熱は多くの観客に伝わるはずだ。(編集部・森田真帆)
映画『2つ目の窓』は7月26日より全国公開