ウディ・アレン、幻想と現実の世界を描いた新作を語る
ウディ・アレンが新作『マジック・イン・ザ・ムーンライト(原題) / Magic in the Moonlight』について語った。
1920年代の南フランスを舞台にした本作は、魔術師スタンリー(コリン・ファース)が、富裕層をとりこにするアメリカの霊術師ソフィー(エマ・ストーン)の超常現象を暴こうと彼女に近づくが、徐々に彼女の魅力と超常現象に引き込まれていくというストーリー。
今作は現実と幻想の世界の対比が面白く、「僕は幻想には賛成だが、現実はつらい仕事のようだ。それは貧富を問わず誰もが思っていると思う。過去に僕は『われわれは真実が同じなのは知っているが、われわれの人生はその真実を曲解する選択をすることによって異なる』と言ったことがあった。僕の映画『カイロの紫のバラ』でも現実と幻想がつづられ、幻想の世界がどれだけ素晴らしいかを描いた。でも、あの映画ではミア・ファロー演じる主人公が現実と幻想の世界の選択を迫られ、彼女は現実を選んだ。なぜなら幻想に入り込むと、自分がおかしくなるからだ。ただ今作でも、苦境や現実などからわれわれを救ってくれるのは、幻想やマジックであることが描かれている」と明かした。
コリン演じるスタンリーがあまりに皮肉屋で、観客に受け入れられない懸念はなかったのか。「舞台と映画の歴史を見ても、観客は皮肉屋のキャラクターが好きだ。辛辣(しんらつ)で意地悪な人でも、観客が楽しめればそれで良い。もっとも、それは正しくまともな人であって、二枚舌やいんちきな人では駄目だ。映画内ではスタンリーが超常現象を暴こうとはするが、内心では自分は間違っていて、ソフィーの神秘的で、未知の素晴らしい超常現象が実際に起こることも望んでいる」と説明した。
今作の幻想のように、自分自身も現実逃避した世界を生きてきたというアレン監督。「子供の頃から一日中映画を観て現実逃避していた。そして大人になった僕は、映画製作によって非現実的世界に逃避した。それを50年くらいずっと続けている。朝起きて、チャーミングな男性たちや美人な女性たち、それに面白いコメディアンたちやドラマチックなアーティストと仕事をし、素晴らしい音楽や衣装を提供されて、それらを選ぶこともできる。だから僕の人生はある意味幻想的な“泡”のようなものだ」と語った。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)