小道具から見る漫画の実写化 2D世界を「具現化する」こと
オタク女子や女装男子など個性豊かな人物が登場する人気漫画を実写化した映画『海月姫』。同作で、演じる俳優以外にもキャラクターの個性を支えている要素の一つである小道具を担当した松村百華は、実写化に際し「原作の世界観を壊さずに、漫画の中のキャラクターや生活を具現化したかった」と語った。
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本作では、クラゲオタクなヒロイン・月海(能年玲奈)が住むアパート・天水館で暮らすオタク女子 “尼~ず” たちを中心に物語が展開していく。その彼女たちの拠点である天水館の共同スペースは、それぞれのオタク趣味を感じさせる小道具であふれていた。撮影セットの食堂には鉄道オタクのばんばさん(池脇千鶴)の丸ノ内線の線路図が飾られ、居間には三国志オタクのまやや(太田莉菜)の武器が立て掛けられる。壁の片隅には枯れたおじさまにときめきを感じる枯れ専のジジ様(篠原ともえ)によるおじさまポスターが貼られたコーナーが出来上がり、ところどころにクラゲオタクな月海のものと思われるクラゲを模した飾りや縫いぐるみが置かれていた。
2週間で作られたという天水館のセットだが、限られた空間で異なるシーンを撮影するため、撮影と同時進行でセットは組み変えられていく。小道具も撮影中以外のものは撮影と並行して調達していくが、特に小道具であふれている今作では、撮影前の1か月半の準備期間をフルに使用してグッズをそろえ、撮影に臨んでいたとのこと。松村は、「月海の部屋を飾る期間自体は1週間もないくらいでしたが、装飾品や小道具の調達にはかなりの時間がかかっています」と説明する。
松村いわく、映画化で一番気を付けていたことは、「原作ファンの方々のイメージを壊さず、また初めて海月姫を知ってくださる方にも漫画の世界観が伝わるように、漫画の世界観を具現化するということ」だという。単行本第1巻の1コマだけに写っていたまややのパンダ柄のスリッパや、雨の中“尼~ず”が説明会から帰宅する際にジジ様がかぶっていた「しめじのダンボール」など漫画の1コマの細部にまで気を配り、忠実に再現したとのこと。さらに「漫画に描かれていない部分でも、監督や俳優部と相談しながら小道具や持ち道具を追加することも多々あった」とも振り返る。政治家一家の次男ながらファッション界への夢を抱く女装男子・鯉淵蔵之介(菅田将暉)の出演シーンでは「オシャレな蔵之介だったら持っているし使うよね」と撮影当日にサングラスやハイブランドのカバンを用意することもあったという。そのほかにも登場人物の一人であるBL(ボーイズラブ)作家の目白先生が描く原画も、原作者のアシスタントに依頼したというほどのこだわりぶり。
そして特にたくさんの時間や協力を必要としたものには、月海の所持品が挙げられた。松村は、「月海のクラゲのトートバッグはイラストレーターの山田人魚さんの物で、今では売られていない物を海月姫のために譲っていただき、そこに能年さんが作ってくださったクラゲバッジや、新江ノ島水族館の記念のクラゲバッジを付けたりしました。月海が天水館でいつも履いているスリッパは手作りです」と話す。また「こういった売られていないものを調達し、世界観を少しずつ表現していくのが一番大変でした」とも付け加えていた。
「思い入れがありすぎて」と照れくさそうに前置きをした松村らの小道具チームは、なんと撮影用ではなく裏方用に月海が作ったクラゲのキャラクター・クララの消しゴムはんこまで制作。見えないところまで「海月姫」の世界で埋め尽くされた現場により、今作の撮影は支えられていたようだ。(編集部・井本早紀)
映画『海月姫』は12月27日に全国公開