韓国史上最悪の大量殺人事件から着想、遺族の痛みに迫る衝撃作が公開
長編監督デビュー作『悪魔は誰だ』を韓国で大ヒットさせたチョン・グンソプが、同作を韓国史上最悪の大量殺人事件ともいわれる「ユ・ヨンチョル事件」に触発されて作ったことを明かした。
愛娘を目の前で失った母親の悲痛な叫び‐‐映画『悪魔は誰だ』フォトギャラリー
同作は、15年前の誘拐事件で幼い娘を失い、その犯人逮捕を願いながら情報を集め続けてきた母と、その事件で犯人をあと一歩のところで逃した担当刑事を軸に、時効直前に発生した15年前の犯行手口と似た誘拐事件をめぐって、遺族と犯人の長年秘めてきた切実な思いや意外な真実が明らかになっていく社会派サスペンス。
チョン・グンソプ監督は、映画『達磨よ、遊ぼう!』などの助監督を経て、本作で初の長編映画のメガホンを取ったが、自ら執筆した脚本の出発点について「以前、時効問題について韓国国内ですごく論争になったことがありましたが、同時期にある凶悪事件の被害者家族の心情を扱ったドキュメンタリーを観る機会があったんです。その時に『遺族の痛みを扱った映画はないのだろうか?』と考えたことが、この映画の始まりでした」と語っている。
その凶悪事件こそ、映画『チェイサー』のモチーフとなったことでも知られる「ユ・ヨンチョル事件」。20人以上を殺害した犯人のユ・ヨンチョルは、2005年に死刑が確定した。チョン監督は殺された被害者の父親のインタビューを交えたドキュメンタリーを観て、「被害者の父親は本当に犯人を許したのだろうか。許そうと毎日努力しているのだろうか」と考えたという。そして、「子供を一瞬で亡くした母親が、時効までの15年もの間をどのように生き、また、彼女がこれからどのように生きていくことができるのかという遺族の痛みを、観客と一緒に考え、悩み、感じてみることのできる作品を目指すことにしました」と作品に込めた思いを語る。
本作は、『チェイサー』や『殺人の追憶』などの骨太な韓国サスペンス映画の系譜に連なる作品ともいえるが、事実を基にしているこれら2作品と違い、物語自体は完全なフィクション。しかし、韓国国内で失踪児童が1万人にも及ぶことや、2007年に15年から25年に延長された殺人罪の公訴時効が論争になっていたことなど、実際の社会問題を背景にしている。また、チョン監督が「この作品で伝えたいメッセージは、遺族の痛みを決して無視してはならないということです」と語っているとおり、フィクションだからこそ、メッセージを色濃く反映させることが可能だった、社会派のエンターテインメント作品となっている。(天本伸一郎)
映画『悪魔は誰だ』は9月13日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国順次公開