ラッパーNasが明かす、自身を描いた『Nas/タイム・イズ・イルマティック』の魅力
ヒップホップ業界で高い評価を受けるラッパーNasが、自身のドキュメンタリー作品『Nas/タイム・イズ・イルマティック』についてOne9監督と脚本家兼製作のエリック・パーカーと共に語った。
本作は、1994年に発売されたNasのデビューアルバムで、名盤と評価される「illmatic」が製作された背景と、Nasが家族や友人の支えによってヒップホップ界に大きな影響を及ぼす存在になっていく過程を映し出したもの。
企画を始動させたのはエリックだった。「2004年に僕は音楽雑誌Vibeで編集を担当していた際に、僕の好きなアルバム『illmatic』の10周年を記念した記事を書こうと編集長に伝え、その記事を作成してからNasに会ったんだ。その時に、彼にこの記事よりもっとデカイことをしたいと話したのが、映画製作のきっかけとなった。もっともその時は、年末にはその映画を製作できると思っていたが、あれから10年たってようやく公開できた」と明かした。
トライベッカ映画祭のオープニング作品を飾ったことについて「まさか、こんなことになるなんて全く期待していなかった。トライベッカ映画祭は、映画祭を通してコミュニティーや文化を反映させてきた。今作は単にアルバム『illmatic』の制作過程を描いたドキュメンタリーではなく、あのアルバムがわれわれのコミュニティーや文化に根付き、われわれの声(ヴォイス)になったことを描いたものだ。そのため、トライベッカ映画祭のオープニング作品と決定したとき、今作が単なるヒップホップやクィーンズの街(Nas出身地)を描いたものではなく、アメリカ国内のさまざまな都市にもつながるものになっていくと思った」とOne9が語った。
Nasは映画を鑑賞して「今作は、僕がなぜこの音楽業界に入ってきたかを再び思い起こさせてくれた。彼らは、今作を通して現在と1994年当時のヒップホップ業界を比較した。当時の僕は金持ちにはなりたかったが、大金持ちにはなりたくなかった。それは、僕の使命は、ラッパーの先人たち、チャックD、アイス・キューブらに敬意を表し、さらに新たな僕の音楽を人々に伝えることだったからだ。今日の音楽はさまざまな分野に広がりすぎ、良い時間を過ごすための音楽で、意味のない音楽も多い。でも今作を鑑賞して、自分の原点に返り、新作を作る気にさせてくれた」と満足げに答えた。
生活が厳しく、危険な環境下で育ったNasの音楽に対する熱意を感じさせ、1990年代の熱きヒップホップ時代をよみがえらせた作品だ。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)