伝説のアイスホッケー選手が明かす旧ソ連のもとでスポーツ選手であることとは?
ニューヨーク映画祭(N.Y.F.F 52)で、NHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)の伝説の選手、ビャチェスラフ・フェティソフが、自身を描いたドキュメンタリー『レッド・アーミー(原題) / Red Army』について、ギャビー・ポルスキー監督と共に語った。
同作は、1970年代~1980年代にかけて旧ソビエト連邦の共産主義体制のプロパガンダとして利用されたアイスホッケーを、同時代の主力選手ビャチェスラフ・フェティソフの視点で描いたドキュメンタリー作品。
製作経緯についてギャビー監督は「僕の両親は旧ソ連のウクライナ出身なんだ。僕は子供の頃からアイスホッケー大会に出場して、プロの選手になりたかった。その時のコーチが旧ソ連出身で、彼のトレーニング方法は僕のアイスホッケーへの概念を変えた。そんな影響から当時旧ソ連チームの映像をVHSで鑑賞し、なぜアメリカのチームも彼らのようにプレーできないのか?と思っていた。その後フィルムメイカーとなり、旧ソ連チームを再びリサーチすると、チーム内での人間関係や裏切り、さらに共産主義体制、アメリカとの関係など、さまざまなストーリーを知ったことで製作に入った」と明かした。
旧ソ連とアメリカのアイスホッケーを比較してみて「現在もロシア代表とアメリカのNHLのチームが毎年試合を行っている。当時、旧ソ連からNHLに加わった僕は、ある意味他の旧ソ連の選手たちの窓口となり、その後他のヨーロッパ選手もNHLに加わることになった。彼らがNHLに参加したことで、より組織的な試合がアメリカでも行われていった。僕自身もニュージャージー・デビルス、デトロイト・レッドウィングスなどでプレーし、(スタンレー・カップ優勝などを通して)素晴らしい体験をさせてもらった」とフェティソフは振り返った。
旧ソ連がアイスホッケーを利用してプロパガンダを行っていたことについてフェティソフは「第2次世界大戦後に共産主義体制のもと(スポーツを通しての)政治的プロパガンダのシステムが出来上がった」と語り、さらに旧ソ連時代にコーチがヴィクトル・チホノフに変わったことについては「彼の試合体制は、それまでのコーチと全く違い、僕らは彼のやり方を学ぶしかなかった。彼は他のどのコーチよりも、ロシアに金メダルをもたらした人だからね」と当初反りが合わなかったコーチに対しても、謙虚に答えた。
映画は、アイスホッケーを通して旧ソ連の社会体制を垣間見ることができる興味深い作品。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)