高速増殖炉「もんじゅ」をただ眺めた…篠崎誠監督の劇場公開未定作東京フィルメックスで上映
24日、第15回東京フィルメックス特別招待作品『SHARING』が有楽町朝日ホールで上映され、篠崎誠監督、山田キヌヲ、樋井明日香、そして脚本の酒井善三が出席した。
立教大学の研究プロジェクトとして、文部科学省から助成金を受けて製作された本作。東日本大震災の予知夢を見た人々を調査する社会心理学教授の瑛子(山田)、そして3.11をテーマにした卒業公演の稽古に追われている演劇科の大学生・薫(樋井)という2人の女性の葛藤を描き出している。本作は篠崎監督の最新作ながら劇場公開は未定ということで、ホールには多くの観客が来場した。
本作について「原作ものではなく、自分の好きなように作っていい機会はなかなかない」と切り出した篠崎監督は、「映画『あれから』で3.11を描いたので、また違ったアプローチで3.11を撮りたかった。僕が高校のときに初めて撮った映画は予知夢とドッペルゲンガーの話だったのでそれを織り込めないかと思った」と述懐。そこにさらに心理学、虚偽記憶といった要素を加味して完成した映画は、夢と現実、真実と虚構が重なり合い、さらにさまざまなジャンル映画の手法を駆使しながらも、震災や原発事故の影響下にある日本人の不安を重層的にあぶり出した作品となった。
山田は3.11をテーマにした作品に出演するにあたり、福井県にある高速増殖炉「もんじゅ」を1人で見にいったとのこと。「かなり雪が降っている時期で。敦賀駅からタクシーの運転手さんに『もんじゅ』まで行ってくださいと言ったら、テレビ局の人ですかと警戒された」と振り返る。
「もんじゅ」の前で降りた山田に、そのタクシーの運転手は「次の路線バスが来るまで3時間はあるから、もういいだろう。雪も激しく降っているのに」と言って心配したというが、山田は1人、海辺から「もんじゅ」をしばらく眺めていたという。「眺めるしかできなかったけど良かった」と振り返る山田。そして帰りの路線バス。「どこから来たの?」という運転手の質問に、「映画のために東京から来た」と返答すると、「姉ちゃん、酒をおごってやる」と言われ一升瓶を渡されたのだとか。山田は「本当に頑張らないとなと思いました」と笑顔を見せた。(取材・文:壬生智裕)