性器切断事件を描いたキム・ギドク監督 「社会から隔離しろ」の批判を一蹴!
韓国の鬼才キム・ギドク監督が新作『メビウス』(12月6日公開)PRのため来日し、インタビューに応じた。過激な性描写から韓国では上映制限を受け、日本でも紆余曲折の末にR18+(18歳以上鑑賞可)となった本作だが、キム監督は「韓国では『病院へ行くべきだ』とか『社会から隔離した方が良い』と言われました。でも、わたしに問題があるというより、この作品を理解できない人の方が問題だと思います」と強気の発言で批判を一蹴した。
夫の不貞に逆上した妻の怒りの矛先が、息子の性器切断事件へと発展する本作。日韓共に問題視されたのが、近親相姦(そうかん)をにおわすシーンの存在で、ここは修正を余儀なくされた。しかしキム監督は「結果的に検閲に負けたが、システムへの挑戦となり、審査に携わる人に改めて規定を考えてもらうきっかけになったと思います」と前向きだ。さらに「そのシーンよりもっと危険な場面があると思うのですが」といたずらな笑みを浮かべる。
それが、自責の念にかられた父親が性器ナシでも快楽を得られる方法を息子に伝授する場面だ。石やナイフを使って、苦痛の向こう側へ到達しなければならない危険な方法は、キム監督が海兵隊時代の禁欲生活から習得した技だといい、「石を使って皮膚を擦ると快楽は味わえます。でも流血を伴い、2度目はできませんでした。本当に痛いので、まねされたら困りますけど」と笑顔を見せる。
そこまでやるか! という描写の連続に、オリジナル版が上映されたベネチア国際映画祭の会場は爆笑に包まれたが、キム監督はいたって真面目だ。「わたしは人間の悩みや秘密を探ってみたいと思ってこの映画を作りました。自分で撮っている間はそこまで思わなかったけど、完成した作品を観たらあまりにもつらくて、もう一度観る勇気はありません。しばらく、力が抜けてしまったかのような感覚に襲われました」。
それでも、内面を晒したセルフドキュメンタリー『アリラン』(2011)で新境地を開いたキム監督の勢いは止まらない。韓国の縦社会を批判した新作『ONE ON ONE(原題)』(2014)が先ごろ開催された東京フィルメックスで日本初上映されたばかりだが、早くも「もう一度、お金とセックスをテーマにした、悪魔の誘惑を描いてみたいと思っています」と語る。今後も観客を挑発する作品を発表してくれそうだ。(取材・文:中山治美)
映画『メビウス』は12月6日より新宿シネマカリテほか全国公開