世界中の廃墟やジェノサイドの起きた場所でアートを手掛ける芸術家リリー・イェーとは?
「裸足の芸術家たち」を意味する“ベアフット・アーティスト”を立ち上げた芸術家、リリー・イェーが、自身を題材にした映画『ザ・ベアフット・アーティスト(原題) / The Barefoot Artist』について、共同監督グレン・ホルステン、ダニエル・トラウブと共に語った。
本作は、リリー・イェーが60年代に中国からアメリカに移住し、フィラデルフィアにある放置された敷地にモザイクの壁画や彫刻を施した樹木の公園を作った経緯から、その後“ベアフット・アーティスト”を設立して世界中の廃墟、ジェノサイドのあった場所で芸術作品を手掛け、そこで暮らすコミュニュティーに平和をもたらしていく活動を描いたもの。
リリーの息子である共同監督ダニエルは「僕は(アメリカ出身だが)1998年~2007年まで中国に住んでいて、さまざまな場所で活動している母に随分長いこと会っていない時期があった。そのため、この映画の企画は母と再びつながるためのものでもあった」と明かし、一方グレンは「今作は8年掛けて製作した、情熱作品とも言える」と答えた。
リリーの作品群は父親による影響が大きいらしい。「わたしの父は旅行や写真に興味を持っていたけれど、仕事の都合でそれほど旅行ができなくなったとき、わたしをよく中国の山水画の展示会に連れて行ってくれた。彼は一つの一つの絵を注意深く観ながら山水画の世界に入り込んでいて、それがわたしには興味深かった。そんな父から受けた影響は、現在のわたしの土台でもあり、それが人々の人生に変化をもたらすための芸術作品を手掛けることになった理由なの」と語った。
60年代にアメリカに移住したリリーはポップカルチャーに直面するが、そんな環境下で、どのようにアーティストとして確立していったのか。「当時(中国の文化を学んでいた)わたしは、正直自分を見失っていた。最初は苦悩の日々が続き、ポップカルチャーに傾倒したり、自分のルーツを見いだすことができなかった。そんな矢先、フィラデルフィアの放置された敷地で公園を作ることを依頼され、最終的に、そこでようやく自分の声(ヴォイス)を見つけることができたの」と語った。
映画は、廃墟や何もなかった場所が、芸術によって徐々に春が訪れたような景色に変わっていく様が見事に描かれ、芸術というものが、人々のもとで根ざしてこそ存在するものであることを痛感させられる作品。 (取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)