諏訪敦彦監督が語るフランスの巨匠アラン・レネとのエピソード
12日、昨年3月に亡くなったフランスの巨匠アラン・レネ監督の遺作『愛して飲んで歌って』の公開を記念したトークショーが代官山蔦屋書店で行われ、レネ監督にゆかりのある諏訪敦彦監督が出席し、革新的であり続けたレネ監督の魅力を語った。
諏訪監督はフランスの映画人たちとの交流もあり、2001年にはレネ監督の『ヒロシマモナムール』(1959)をリメイクした『H story』を発表したことも。そのつながりからレネ監督が亡くなったときに追悼文を依頼されたこともあったそうだが、「(レネ監督について)よくわからない」と断り続けたという。
「わからない」という理由の一つに、諏訪監督は『H story』を発表する際のエピソードを披露。必要なことではなかったが、諏訪監督は許諾をもらい仁義を通すという意味で、編集が終わった段階でレネ監督にビデオを送ったという。「なんて言われるのかな?」と思っていたところ、「これはまだ編集終わってないだろう? 完全に終わったものを観せてくれ」と言われたそうで、「その時になんか吹っ切れたというか、レネとは違う映画を作っているんだなと実感した。それでいいんだと思ったし、根本的なものがレネとは違うから理解できない」と思いを吐露。
また、「レネは自分の作品に中にメッセージはない。アーティストではないともよく言っていた。独特な世界を現実化させるとか、その世界の中で好きに人物を動かすとか、そういうアプローチはないだろう」とも。そして、最新作について「(劇中に)登場しない人物が中心に描かれるが、実体のない実体が想像の中のスクリーンに現実化する」という観点から、「見ているものが現実なのではなく、作り出している領域にある現実の方が大事なんだろう」とレネ監督の神髄についても自己流の解釈を述べた。
本作は、友人ジョルジュの余命がわずかなことを知った3組の夫婦が、彼の残りの人生を良いものにすべく一致団結する姿を描いた陽気でチャーミングな人間ドラマ。2014年のベルリン国際映画祭では、通常、映画芸術に新たな視点をもたらした若手監督に与えられるアルフレート・バウアー賞を受賞しており、91歳にして新境地を開拓したレネ監督に対する最高の賛辞として話題となった。(取材・文:鶴見菜美子)
映画『愛して飲んで歌って』は2月14日より岩波ホールほか全国順次公開