やくみつる、強くお薦めしたくない映画『おみおくりの作法』
漫画家のやくみつるが15日、シネスイッチ銀座で行われた映画『おみおくりの作法』大ヒット記念トークショーに来場、2010年に亡くなった往年の名女優・高峰秀子さんの吸い殻について語った。
身寄りのない人の葬儀を行う地方公務員にスポットを当てた本作。1月24日にシネスイッチ銀座で公開がスタートするや、満席・立ち見の回が続出。同館で、初日・2日目ともに動員が1,000人を超えたのは昨年公開の『チョコレートドーナツ』以来とのことで、現在も大ヒット公開中となっている。この日はその大ヒットを記念して、本作のために「できればこの映画、強くお薦めしたくない。ふと入った映画館で、存外の洒落た一篇に出会い、シミジミと或る人物の死を悼み、退出する……。心の宝物にしたいような逸品です」というコメントを寄せたやくのトークショーが実現した。
本作上映後。ラスト1分間で突如訪れた「奇跡的なラストシーン」を堪能し、深く静かな感動に浸っていた観客の前に登場したやくは観客の余韻を壊さないような静かな口調で「雑な感想だけど、いい映画でございましたでしょ」と会場に呼びかけ。続けて「映画をご覧になれば分かりますが、終了後にキャーキャーしゃべるのもはばかれるようなしっとりとした映画。声高に感想を言うのはヤボではないかと思い、推薦コメントとして『強くお薦めしたくない』という文言を書きました。ご覧になった方はなるほどと思っていただけたのではないか」とその真意を解説。
本作主人公のジョンは、これまで弔った人々の写真をアルバムに整理することを日課としているが、「有名人のタバコの吸い殻」の収集家としても知られるやくも、この行為に共感している様子。「たばこの吸い殻は、人の呼気が通過しているもの。ほかのものにはない、その人が生きた何よりの証し。木箱に入れてきちんとお見送りしています」と言うやく。「生前、高峰秀子さんから吸い殻をいただいていたものですから、高峰さんのご遺族の方から、『ご返却いただけないか』と連絡がありました。そういうことであればお戻しすることはやぶさかではない。ただ、高峰さんがなくなられた時に、特別扱いしなくてはと思い、別の箱に入れたのですが、部屋が散らかっているために、かえって見つけられなくなってしまった。でも必ず見つけようと思います」と決意を語った。(取材・文:壬生智裕)
映画『おみおくりの作法』はシネスイッチ銀座ほかにて公開中