加藤登紀子、原発事故を知ったこと…後世への責任を語る
福島第一原子力発電所事故に衝撃を受け、世界中で核被害に翻弄される人びとの暮らしや証言を記録したドキュメンタリー映画『わたしの、終わらない旅』が7日から公開され、上映館のポレポレ東中野で、歌手・加藤登紀子と坂田雅子監督のトークイベントが行われた。加藤が「映画を観終わって、おえつが止まらなかった。(現実を)本当によく捉えましたよね。拍手を送りたい」と坂田監督をたたえると、会場から拍手が湧き起こった。
東日本大震災からまもなく4年。坂田監督は「登紀子さんが2011年5月25日に福島・飯舘村で(計画避難の期限が5月31日に迫るなか)行った最後のコンサートに行ったことが、今回の取材の第一歩でした。それまで、福島の事故後をどう撮ったらいいか、踏ん切りがつかなかった」と製作を決意した際の思い出を述懐。続けて「登紀子さんのコンサートにいつも心を動かされている、含蓄のあるメッセージがあるんです。今日は、それを登紀子さんに朗読してもらいたいと思います」と紹介する。
そして加藤は、自著「スマイル・レボリューション 3・11から持続可能な地域社会へ」の一節から、テオ・アンゲロプロス監督の映画『こうのとり、たちずさんで』に触発された詩を朗読。この映画では、紛争下、故郷を目前に橋の上の国境線を踏み越えることができず、片足を上げてたちずさむ男の痛切な姿が描かれる。朗読を終えた加藤は「原発の安全神話は吹き飛んだし、放射能汚染のなかで生きる困難さもわたしたちは知った。意識は変わりつつあると思う。一方で、日本は原発再稼動を選ぼうとしている。上げた片足をどっちに向けるのか、戦後の日本の歩みを考えるときだと思うんです」と語った。
坂田監督も「本作を撮って(坂田監督の前2作のテーマ)枯葉剤の被害と核エネルギーは、同じコインの裏表だと思いました。どちらも戦争が生み出したものだし、戦後の日本とアメリカの関係が深く関わっている。わたしたち1人1人がしっかり考え、次の一歩を踏み出せば、良い方向に向かっていくのでは、とわたしは楽観的に考えているんですが」と語ると、加藤は「わたしたちは原発事故を知ってしまったのだから、後世の人たちへの責任は重大ですよ」と静かに場内に語り掛けていた。(取材/岸田智)
映画『わたしの、終わらない旅』はポレポレ東中野で公開中 全国順次公開