岩井俊二監督 アリスと父親に反映されたエドワード・ヤン監督の影響を明かす
岩井俊二監督が10日、都内で行われた映画『花とアリス殺人事件』公開記念イベント「岩井俊二の『花とアリス殺人事件』ラボ」に映画評論家の樋口尚文と共に出席し、『ヤンヤン 夏の想い出』などで知られる2007年に亡くなった台湾の名匠エドワード・ヤン監督への思いを語った。
アニメでよみがえる『花とアリス』の世界!『花とアリス殺人事件』予告編
2004年に公開された『花とアリス』の前日譚(たん)を、長編アニメーションとして描き出した本作。この日は、観客参加型のティーチイン・イベントということで、すでに同作を複数回鑑賞したというファンが多数来場。目黒などモデルとなった土地の話、「電脳コイル」などで知られるアニメーターの磯光雄が作画協力で参加した話、黒澤明監督の名作『生きる』にオマージュをささげたシーンの話など、ファンにはたまらない濃密な話の数々に熱心に耳を傾けていた。
そんな中、「(主人公のアリスが別居中の父親と会う)鎌倉のシーンが良かったですね」という樋口の感想に、「あれ、実はエドワード・ヤンの影響もあって……」と意外な事実を語る岩井監督。ヤン監督の遺作であり、岩井監督が日本版予告編を手がけた『ヤンヤン 夏の想い出』を例に出して、「普通は、男女が出てくれば、そこにラブストーリー的な要素を見つけてしまうじゃないですか。でも『ヤンヤン』はそうではなかった」と切り出した。
岩井監督は、そこで描かれた台湾のサラリーマン男性と、イッセー尾形演じる日本人がただ仲良くなるだけの過程をラブストーリーのように描いた演出スタイルに驚いたそうで、「映画ってまだまだ未知なところがあるんだなと思った。人の関係って単純なものじゃないし、気付かないところにすてきな関係がある。そこを映画は描いていけるんだなと思った。そこで、その関係性をアリスと父親で試してみたいなと思った」と振り返る。
「エドワードとは台湾のバーで偶然に会って仲良くなった。彼はいい先輩でしたね」と述懐する岩井監督は、「ロスで行われた彼のお葬式も、たまたまロスにいたんで参列できた。最後まで縁のある人でしたね」としみじみ付け加えた。(取材・文:壬生智裕)
映画『花とアリス殺人事件』は公開中